~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
福島地裁・裁判員ストレス国賠訴訟原告弁護団
事件と詳しい訴訟内容についてはトピックス「ストレス国賠訴訟」の第1回口頭弁論報告~第3回口頭弁論報告をみてくださいね
【織田信夫さんのお話】
今日、Aさんにお出でいただく、それが難しい場合はご主人にということでお願いしていたのですが、やはりお二人とも体調がよくないということで代わりに来ました。
Aさんは裁判員になったことで急性ストレス障害という病気になったがこれは完全な傷害です。刑法に定められた傷害で、それが過失によるものであれば過失傷害になるもので、その被害者だという話です。。
私たちがやっている裁判というのは、Aさんが受けた障害の責任が誰にあるのかということを問う訴訟な訳です。私たちはその責任は当初、国会議員にあると、衆議院は全会一致、参議院では反対2人で180人の議員が賛成して成立した裁判員法を作った議員にあると訴えを起こしました。
最初は仙台地裁に裁判を起こしたのですが、移送ということで現在、福島地裁で、裁判員法の規定が憲法18条、22条、13条に違反するという主張で裁判をしています。
もちろん、国側は最高裁の2011年11月16日大法廷判決を引用して、裁判員法は18条を含め憲法違反ではないという答弁をしております。
それに対し私たちは、福島地裁の民事の裁判官は非常に忙しいので、それまで裁判員法は聞いたことがあっても深く研究したことはないだろうと思いまして、これは噛んで含めるように説明しなければならないということで、答弁書に対する反論という形でA4の紙にして32 枚の準備書面を書きました。本当はみなさんに全文読んでもらいたいと思うくらいです。
私たちは、国側から答弁書に引用されているということで、最高裁大法廷判例に添付されている上告趣意書、一審・二審の判決文、答弁書を改めて読んでみて、非常にびっくりしました。最高裁は上告趣意をねつ造しているというか、実際には上告、これについて判断してほしいということを要求していないことについて判断していることがわかり、そのことを準備書面には詳しく書きました。これは説明すると難しいのですが、本来、最高裁の違憲法令審査権、法令の違憲性・合憲性を判断するのは上告の申立、上告趣意といいまして、不服があったことに対して判断するということになっているんですね。
そうでなく、一般の法令について判断するということは憲法裁判所のような働きをすることになります。しかし、学説も裁判所の判例も憲法81 条における最高裁の違憲法令審査権の解釈については、憲法裁判所としての判断ではなく、司法裁判所として具体的な紛争があったときに、その上告趣意を判断してほしいという当事者からの申し立てに基づいて判断するということが確定しております。
これに対し、最高裁はどういうやり方をしたかというと、弁護人が上告趣意にしていないことについて、さも上告趣意としていたように「上告趣意は多岐にわたってこういうことを言っているけれども私たちはこのように判断する」という書き方で判決を出していたのです。私は上告趣意書の原文を見ていなかったので、まさか最高裁が上告趣意に言っていないことを言ったと書くなどということはとても考えられなかったです。
最高裁の調査官を務めた人に電話で聞いたのですが、「最高裁は今まで、そんなことはやったことはありませんよ」と、当然のことなのですが、そのように言われました。
私はそのことを含めて32 枚の準備書面で述べた訳ですけれども、検察官(国側)はこれにノーコメントで、「即日結審してほしい」と言いました。私の方は、本人尋問を絶対してほしいと思っていましたし、準備書面も用意していたのですが「結審してほしい」と。これには裁判所も非常に驚きまして、裁判長は慌てて、被告側に対し立法事実、裁判員法がどうして必要なのか主張しなさいと勧告するようにしました。
国側は渋っておりましたが、1 ヶ月後に答弁書を出してきました。
ところが国側の答弁書は、最高裁のねつ造に対して答弁をしていなかったのものですから、新たに最高裁の上告趣意のねつ造、15 人の裁判官の不法行為という主張を組み立て、訴えの変更、追加的変更を行いました。訴えの追加的変更なので、答弁せざるを得ないのですね。
これに対し国側は渋々答弁してきました。
もとより、私たちの言っていることが「もっともだ」とは言いませんよね。
ぐちぐちと言っているが、何を言っているのか分からない内容なんです。
私の方では釈明要求もしました。小清水弁護人が出された上告趣意の中には文言として、苦役とか裁判官の良心に基づいて判断するとか、76条3項などと含まれているのですが、「これらは上告趣意にしない」と明確に言われており、「判断してほしいのは80条1項と76条2項それだけです」と、「それだけ」と言い切っておられる。それなのに最高裁は「上告趣意が多岐にわたる」などといってまとめている。
私はこれを見て非常に腹が立ちました。最高裁の判例を見て、小清水さんが上告趣意として18条などなんだのと言っていないということに気がついた夜は眠れないくらいでした。最高裁判所というところは本当にひどいことをするところなと、改めてというとなんですが、ちょっと信じられない思いでした。
このように請求原因変更をしましたので、国側はそれについて答弁しましたが、裁判所は「これは前の準備書面で言っていることですね」という簡単な言い方で受け止めました。
その後、最終の証拠調べとして本人尋問をやりました。後、発言時間が1分しかないということなので。Aさんは本当に切実として本人尋問に答えてもらいました。後、その辺の詳しいことは佐久間弁護士からお話があると思いますが、いずれにしても裁判所からは本人尋問にしても補充尋問も丁寧にしてもらいました。私が30分くらい、裁判官の質問は右、左そして裁判長と合わせて3人の裁判官が代わる代わるみんなで15分くらいですかね、これはちょっと「絶望」ではなく、少しは望みがあると思っています。本人尋問をするということは侵害論ですので。終わってくださいということなので終わりますが、9月30日の11時から判決が言い渡されると言うことになっています。(最終口頭弁論から判決までの期間が)非常に長いですので、それだけ裁判官も一生懸命考えて良い判決を出してくれるのではないかと思っています。
【佐久間敬子さんのお話】
Aさんが現在もどんな苦しい状況にあるかということを掻い摘んで報告します。私たちは訴状の中で、Aさんがどんな苦しみについて、診断書やカルテなどでどのような薬を飲んできたか、ご本人の陳述書でなかり詳細なものを出しました。裁判所には、彼女がどういう過酷な立場にあるかということは理解してもらったと思います。
Aさんの受けた苦しみというのは、身体面、精神面、それから経済面、生活面、あらゆる場面にわたっています。裁判員に選ばれてしまったその日から不穏な状態で不眠、夜眠れないということが続いておりました。裁判員裁判の公判では、非常に過酷な写真を見せられたり、悲痛な叫び声の録音を聞かされたりして、ご本人は足が震える状況に立ち入りました。Aさんは大変真面目だし、センスの良いというか、権利意識の高い方である反面、責任感も強いということで、自分は裁判員になった以上は身体がボロボロになってもこの仕事をしなくてはいけないと思ったらしいんですね。それで、他の裁判員の方はどうだったか知りませんが、一生懸命、証拠調べをしたり、被告人質問をしたり、証人に聞いたりしたそうです。
そういう中で、初日は自分で車を運転して裁判所へ行ったのですけれども、翌日からはそれができなくなり、ご主人の運転する車に乗せていってもらった。
裁判の中ではちょっとボーとしたり、集中力がなくなったりということもあったし、食欲もないという状況が続きました。
なんとか判決まで我慢してきましたが、その後も症状が改善しないということで、内科の先生に診ていただいたのですが、専門外だということで神経内科を紹介され、そこで急性ストレス障害と診断されたのです。
急性ストレス障害というのは、別名、急性ストレス反応と言われています。反応ですから、4~5日経てば良くなる人もいるし、1ヶ月も経てば急性症状が治まって、急性症状というのは激烈な症状のことですが、それが治まって少し緩解というか緩やかな症状となって慢性化する人もいる。
しかし、Aさんの場合は、昨年3月に急性ストレス障害の診断を受け、1年2ヶ月経った現在も急性状態だとお医者さんから言われているということです。非常に辛い状態がずっと続いているということなんです。
では、Aさんがどういう状態かと言いますと、画像が頭から離れない、うなされて目が覚める、被告人がボロボロの服を着て姿を現す、追いかけ回される、怖くて仕方がないので鍵をもう一つ余計につけた、音楽を聴いているとそれが断末魔に叫び声に聞こえ、お坊さんの合唱が聞こえてとても怖く、お肉は全然食べられない、食事の準備もできない、などです。
原告本人尋問の後の記者会見では、ご本人は気丈な人なのでしっかりとお答えになっていたのですが、ご主人に記者が質問した際、ご主人は「ここではあまり自分の妻がどんなにひどい状況にあるか語れない。妻がかわいそうだ。家庭がめちゃくちゃになってきた」と仰っていた。
夫としてそういう妻の姿を見るのは辛いし、仲良く生活されてきた二人だと思いますが、「これからいよいよ年を重ねて夫婦で静かに暮らしていきたいという将来像が壊された」と仰ってました。
Aさんは急性ストレス障害だと言いましたが、最近見る夢というのは硫酸を顔にかけられたとか、ものすごい汚い泥の中で死んでいくというようものだそうです。
苦しかった、本当に辛かったという後、だんだん、自分は訳が分からないままに死刑の判決に与してしまったという加害者的悔恨の念が強くなってきたということなんですね。見て聞いたことが咀嚼できないままに死刑判決を出してしまったバカな自分と。
ですから、罪深い自分が報いを受けて当然だから、苦しい状況に陥っているのかなということなんです。今、一番苦しいのは、自分の被害体験ではなく、加害行為をしてしまったという悔いの念なんですね。
裁判員制度は「現代の赤紙」と言われますが、こんなことが許されるなら徴兵制だって許されるだろうと、理屈はそうなると思います。
Aさんは、最初の状況から1年2ヶ月経っても全然罪の意識みたいなものが弱くなっていないと。Aさんの事件を担当させていただいて、死刑判決まで入っている裁判員制度を強制することはまさに徴兵制と同じだとつくづく感じております。
戦争から戻った方々がいろいろな証言をされています。私も少し前、「アフガニスタン・イラクから帰ってきたクルド兵士」というタイトルの帰還兵士証言集会に関わりました。話を聞くと、戦争で罪のない人を殺してしまったという意識から解放されないということで、証言した兵士も薬をいくつも飲んでいました。
Aさんが裁判を起こしたのは、こういう苦しみは私が最後であってほしいということです。この苦しみは私で最後、裁判員制度は止めてほしいということなんです。
私は、Aさんはすばらしい女性だなといろいろなことで感心しているのですが、そういう女性が辛い目にあって自分を責めている。
ですからこの制度を早く廃止して、Aさんご本人には少しでも楽になれるよう心から願っています。
投稿:2014年5月23日