~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
よい子の皆さん、お待たせしました。曹洞禅、臨済禅と並ぶとも言われる(マネージャー注:わけないだろ)インコ禅の教祖めざし日夜精進に励んでいる私めと弟子(マネージャー注:鸚哥大学の後輩のことです)の問答、そうインコ禅問答の登場でーす。
6月4日の『朝日新聞』オピニオン欄に、日弁連全国冤罪事件弁護団連絡協議会座長の今村核さん(写真)ていう弁護士さんがインタビューに答えているのを読みました?
インタビューのタイトルは「冤罪 防げますか」です。えん罪問題がテーマらしいんですが、裁判員制度にも触れてるんです。
インタビュアは、裁判員裁判はえん罪を防ぐ効果を持っているかと尋ねています。
今年3月までに裁判員裁判で判決が出た6391人のうち、有罪が6357人、無罪は34人、有罪率は99.5%だった。全刑事事件の有罪率は99.9%だから、職業裁判官の裁判なら6、7人程度しか無罪にならない計算なのに34人も無罪になったのだから、えん罪を防ぐ一定の効果はあったと言えるって答えています。
インコの手元のデータと突き合わせるとだな、「今年3月までに裁判員裁判で判決が出た6391人のうち、有罪が6357人、無罪は34人」というところまでは正しい。しかしそこから後がおかしい、いや間違ってると言った方がよい、ダメだ。
座禅組んでるふりなんかしてもったいぶらないで、具体的に説明してあげなさいよ。
(ちっ、またうるさいのが出てきた…)「全刑事事件の有罪率は99.9%で、職業裁判官の裁判なら6、7人程度しか無罪にならない計算なのに34人も無罪になった」って言ってるんでしょ。「有罪率」という表現の曖昧さも気になるし、「全刑事事件の有罪率は99.9%」って言ってるところは全然なってないし。
まず、有罪率と言うけれど、有罪の人数を「総人員」で割ったのか、それとも「有罪+無罪」で割ったのかがはっきりしない。それに「99.9%」っていう数字をどこから引っ張ってきたのかの説明もない。
なるほど。本当は99.9%なんていう数字にはならないんですか。
なるもならないも、どこかの裁判所のどこかの時期を選べばそういうこともあるかもしれないっていう程度の話だよ。ちゃんとした議論をする気なら、いつからいつまでのどこの裁判所のデータだと正確に断らなければ意味がない。井戸端会議や床屋談義じゃないんだからね。
(つったく最近の雛鳥は…)集中しよう。データの身元確認のこと以外にも言わなきゃならないことがある。だいたい「全刑事事件の有罪率」を問題にしてもあんまり意味がないんだよ。
詰めた論証の議論をするのなら「裁判員裁判対象事件」で比較すべきです。かつて窃盗事件で有罪・無罪の判決分布がどうなっていたかを調べたところで、裁判員裁判のもとではそういう事件は裁判員裁判対象事件と一緒に犯した場合しか登場しないんだから、比較する意味が乏しいというわけ。
そう。つまり、どうしてここで「全刑事事件」を登場させるのっていう話。何かと何かを比較するときには、条件を同じくして比べなければ比較論としての価値が一挙に落ちるっていうこと。
よくわかります。おちょこの日本酒とコップのビールでおいしさを比べるなってことですよね。お爺さんから聞いたような気がする。
(無視して)最高裁が2012年12月に明らかにした「裁判員裁判実施状況の検証報告書」という資料がある。そこで裁判官裁判で言い渡された判決と裁判員裁判で言い渡された判決の比較が行われているんだ。「図表3 終局結果の比較(罪名別)」だよ。
ふーん、ケンショーでシューキョクねぇ。で、そこにはどう書いてあるんですか。
ここでは条件というか、判断のわくを近似させて比較している。まず、比較する対象を裁判員裁判の対象の罪種にしぼる。そして、裁判員裁判が始まる前の3年間にプロの裁判官が出した判決と裁判員裁判が始まってからの3年間に裁判官と裁判員が一緒になって出した判決を比べる。そこで有罪や無罪の数値がどう変化しているのかをみているんだ。
いや、裁判官裁判と裁判員裁判をきちんと比較しようと考えれば、これは当たり前のこと。ほめるような話じゃない。
裁判官による判決だけど、罪種で言えば裁判員裁判の対象になるはずの事件の判決をピックアップしてみたということですね。
それほどでも…。つまり、それが条件の近似化っていうことですよね。日本酒もビールもコップで飲めと。
最高裁の資料をもとに、マネージャーに整理してもらったのが下の表だ。上手にまとめてくれたのでこれで十分です。元の「図表3」を見る必要はない。
まず、制度実施前の2006年から08年までの3年間に裁判官裁判で言い渡された判決について有罪・無罪の分布状態を見ると、被告人7522人のうち有罪(一部無罪を除く)が7224人だったことがわかる。
被告人の総人数を分母にして有罪の総人数を分子にすると96.0%になってますね。ところで「一部無罪」ってなんですか。
2人を殺したって起訴された事件で1人が無罪になったようなケースだね。
ということは、「無罪」っていうのは検察官の起訴が完全に否定されたケースですか。
そのとおり。数は少ないけれど「一部無罪」というケースもある。さて、今度は、制度施行(2009年5月21日)から2012年5月31日までの約3年間の裁判員裁判で言い渡された判決を見る。制度が始まった初期の3年間の数字で、現在までの総数ではないことに注意しよう。被告人の総数は3884人だ。
そう、ほぼ半分だ。重大犯罪が激減していることがよくわかるだろ。実は、もう少し広げて事前5年と事後5年を比較するとその差はさらにはっきりする。もう半分を大きく割り込んでいるよ。話を戻すと、この3年の有罪の人数は3769人だ。そしてその比率は97.0%だ、97.0%だよ。
あっ、あっ、あっ。裁判官時代の有罪率96.0%が、裁判員時代に入ったら97.0%にアップした。裁判員裁判の方が有罪率が高くなっている。
そうなのさ。さらに分析を進めようか。覚せい剤取締法違反に限ってみると、裁判官裁判では178人中の173人が有罪、つまり有罪率97.2%。それが裁判員裁判になると353人中の334人が有罪だ。
へぇーっ。覚せい剤取締法違反は、裁判員裁判時代に入って数が増えているんですね。
そう、刑事犯罪が激減するすう勢のなかで、覚せい剤を外国から日本に持ち込む犯罪は大きく増えているようだ。ところで、この犯罪に限って見ると、有罪率は確かに下がっているでしょ。この有罪率は94.6%だよ。
その一方、覚せい剤取締法違反事件を除く事件では、裁判員裁判の有罪率は跳ね上がっている。いいかい、裁判官裁判の有罪率は96.0%なのに、裁判員裁判の有罪率は97.3%。1.3ポイントも増えているんだよ。これにはインコも改めて驚いた。驚いたなんてもんじゃない。驚き桃の木さんしょの木。ブリキにタヌキに蓄音機。
市民生活に密着した罪種って言えば道路交通法違反くらいで、生活感覚の延長線上で考えられる重大犯罪っていうのはあんまりないけれど、それにしても覚せい剤の密輸入というと、並外れて縁遠い罪種でしょうね。
(急によくしゃべるようになったわね…。) そうよね。一部の有罪減少傾向を別とすれば、裁判員裁判対象罪種のほとんどは有罪増加の傾向を示している。
ここにまとめてないけれど、元資料の図表3に基づいて言うと、強盗致傷は94.2→97.2、殺人は97.4→97.7、現住建造物等放火は96.4→97.2、傷害致死は97.6→97.9、強制わいせつ致死傷と準強制わいせつ致死傷が97.2→99,5、強盗強姦が90.5→91.4、強盗致死(強盗殺人)が95.8→98.2っていう具合だよ。
裁判員裁判の傾向は明確に有罪の増加だ。君の言うそのなんたらさんは、こういうきちんとした分析をしていないとみえる。本気で裁判員裁判では無罪が増えているって思っているとすれば不勉強だし、本当のことを知っているんだったらウソつきっていうことになるだろう。
今、インコさんは「有罪率」で比較したけれど、無罪の総人数を終局人員の総人数で割った「無罪率」を考えてみて。さっきの表をもう一度見てご覧。裁判官時代は0.6%だった無罪率が裁判員時代には0.5%に下がっている。0.1ポイント減ね。
人数で言えばだ。裁判官3年で1,000人中6人の無罪が出ていたのに、裁判員3年で1,000人中5人しか無罪が出なくなってしまった、覚せい剤取締法違反を除けば6人から3人までどか減りしてしまったっていうことだ。
わかりました、わかりました。このなんたらさんはウソつきに違いありません。
もう1つ付け加えておきましょう。捜査当局の間から、覚せい剤密輸の事件は裁判員裁判の対象から外そうという意見が出ています。
ふーっ。有罪率が下がり無罪率が高まることがえん罪防止の鍵になるというこのインタビューの論法を前提とすれば、裁判員制度はえん罪防止どころかえん罪助長の鍵を捜査当局に与えていることになりそうですね。
(うわっ、今日一番のヒットの言葉。この子にしては上出来) そのとおりです、本当に。
この人のお説をもういちど確認したくなった。「今年3月までに裁判員裁判で判決が出た6391人のうち、有罪が6357人、無罪は34人、有罪率は99.5%だった。全刑事事件の有罪率は99.9%だから、職業裁判官の裁判なら6、7人程度しか無罪にならない計算なのに34人も無罪になったのだから、えん罪を防ぐ一定の効果はあったと言える」。でもどうしてこういう物の言い方が堂々とできるんでしょうか、この人。
私のオフィスにある「エンサイクロペディア・シッタカブリタニカ」でこの人を調べたら、少しわかりましたよ。自由法曹団の司法問題委員会委員長という肩書きの人ですね。著書『冤罪と裁判』の中では、「裁判員制度で冤罪を減らせるか」という章をわざわざ設けて、職業裁判官では乗り越えることが困難な障壁を現実的に乗り越えるんだって、そんな言い方で裁判員裁判を評価しています。この人、どこでも決まり文句のように「有罪率は99.9%」って言い、自分は何件無罪をとったとかやたらに言いたがる人のようですね。
自由法曹団っていうのは「裁判員制度は市民が裁判に参加するという点で,民主主義・国民主権の意義にかなう制度と言える」って言っていたあの団体だろ。『朝日新聞』とは波長がやたら合うんでしょうかね。
今日のお話を整理させて下さい。
□裁判員裁判になった結果、以前より全体として有罪が増え無罪が減った。
□裁判員制度はえん罪防止に役立たないどころかえん罪を増加させている。
□ウソを言って人を騙すのは悪いことだ。
これでいいでしょうか。
ま、いいんじゃないか。今日は触れなかったけれど、裁判員裁判には判決の重罰化を進めているというもう1つの大問題がある。求刑超え判決が裁判官時代の10倍にもなっているというようなことも最高裁の統計数字に出ている。そういうことをまとめて言えば、裁判員裁判はえん罪を増やし、重罰化を押し進めるものということになるね。
投稿:2014年6月17日