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お待たせ 出前講義「惨数の時間」です!

鸚哥大學附属中学校の要請を受け、中学2年生を対象に裁判員制度の現状の出前講義。はらはらしているマネージャーを尻目に、インコ張り切って出かけました。

1-e1397901276348みなさん、こんにちは。

070907 (3)070907 (3)こんにちは。

1-e1397901276348今日は天気も良く、皆さん元気も良いですね。

070907 ん?

001178まね0 (出だしからこの調子なんだから…)

1-e1397901276348今日は、最高裁ご発表の数字によって、裁判員制度の惨憺たる数字、略して惨数のお勉強をするつもりで参りました。基本資料は「裁判員裁判の実施状況について(制度施行~平成27年1月末・速報)」です。
皆さんもご承知のとおり、裁判員裁判は2009年の5月に始まりました。始まった年を1年目とすると今年2015年は何年目になりますかぁ?

070911はい、7年目です。

1-e1397901276348そうですね、よくおわかりです。最高裁は、判決まで行っていない事件を「新受人員」と言い、判決まで行くと「終局人員」と言います。今からお話するのはすべて「新受人員」についてです。
今年1月までに行われた裁判員裁判は、被告人数で9161人です。1万人近い人が法律知識をほとんど持たない素人に裁かれ、刑務所に送り込まれるなどしています。

0709082被告人かわいそう。

1-e1397901276348そうですね。その半分近くを占めるのが「強盗致傷」と「殺人」です。「強盗致傷」は強盗の機会にケガをさせたもの、「殺人」はご存じ殺意を抱いて人を死なせる犯罪。これに「現住建造物等放火」「傷害致死」「覚せい剤取締法違反」が続き、この五傑で全体の7割を超えます。こそ泥や空き巣も刑事事件です。道交法違反だって刑事犯罪ですよ。裁判員裁判の対象犯罪なんて言うと考えるのもおぞましくなりますね。CAHDWUqVIAANlA-

070911どっかの国の首相もおぞましいよ~(笑
070911もしかしてこの人のことですかぁ(笑

1-e1397901276348あはは。失礼ですよ。
これまで裁判員裁判をいちばんたくさん審理しているのは千葉地裁で884人、次が東京地裁本庁で750人、3番手が大阪地裁本庁で715人。さて、千葉地裁がトップなのはどうしてかわかりますか。

070911はい、成田空港があるので、覚せい剤取締法違反が多いからです。

001181(さすがイン大付属、予習もバッチリね。インコさん下手なこと言っちゃダメよ)

1-e1397901276348はい、そのとおりです。よく知っていますね。やらされる千葉県民も県民に裁かれる被告人もかわいそう。立川支部と堺支部を加えるとこの3都府県の裁判員裁判の被告人の総数は2793人。罪名別と庁別で最高裁発表の数字が異なっているのでややこしいけれど、3都府県の総数は47都道府県の総数の実に3分の1を占めているのです。

0709082東京都民も大阪府民も、都民・府民に裁かれる被告人もかわいそう。

1-e1397901276348制度施行2年後に起きた東日本大震災と福島の原発事故。このことに関連したデータも見ておきましょう。この7年間に福島県では115人、宮城県では110人、岩手県では33人の被告人が裁判員に裁かれている。仮設住宅や避難先にも出頭要求の赤紙が来たとして、なんということだと非難の声が上がりました。

0709082仮設住宅や避難先にもですか。
0709082ひどい。

1-e1397901276348自分の今日明日の生活を犠牲にしても人を裁くために裁判所に出頭せよと言うですから、裁判員制度は鬼畜です。
裁判員や補充裁判員の実情に目を移してみましょう。この7年間に実際に裁判員を務めた人は4万2268人、補充裁判員を務めた人は1万4413人、合計5万6681人です。

070907そんなにたくさんいるんだ。

1-e1397901276348そうです。ですが、その人たちはどこに行ってしまったのかまったくわかりません。マスコミなどに登場するのはほんとうに限られた人しかいないのです。こういう少なさを「仰天の星」と言います。驚くほど少ないときに使う言葉です。

001178まね0(ウソつくな。みんな真面目に聞いてメモしてるぞ)

1-e13979012763486万人近い人たちがひっそりと生きていることを考えて下さい。これは大変なことです。そう、「暁天の星」と言う人もいますね。

焦る(トホホ)

1-e1397901276348審理期間を見ましょう。
審理全体の平均期間は1年目が5.0月で今年1月が8.2月と、明らかに長期化しています。裁判所は血相変えて短くしようとしているけれど、なかなか短縮できません。当たり前です。短い公判期日で勝負を迫られる検察も弁護も公判前整理手続の中で粘りに粘りますからね。

1-e1397901276348審理期間のうち公判前整理手続の期間に絞って見れば、1年目が2.8月で今年1月が6.6月。2倍を優に超えています。いくら最高裁がハッパをかけても簡単に短くなんかなりませんよ。この傾向は、自白事件、つまり被告人が犯罪の成立を争わない事件と、否認事件、被告人が犯罪の成立を争う事件で大きな差はありません。裁判所の強権発動に抗(あらが)い、自白事件でも悪質性の有無や程度をめぐって激しい闘いが展開されているからですね。

1-e1397901276348続いて平均実審理期間を見ましょう。
平均実審理期間というのは第1回公判から判決言渡しまでの日数です。1年目が3.7日で今年1月が8.9日。たいへんな延び方でしょう。いや、正確に言えばもともとが短すぎるんですよ。

070911はい。犯罪の認定や刑の量定が1週間くらいでできるという考え方自体、そもそも根本的におかしいと思います。
070911延びるのが当たり前です。

1-e1397901276348そうですね。最近の最高裁は「裁判員の理解が深まるよう丁寧に議論せよ」なんて言っているけれど、現場は早期終結の大号令が鳴り響き、裁判長は時間に追われて血眼です。それでも審理期間はどんどん延びている。これは否認事件で特に目立つ傾向ですね。否認事件に限って見れば、1年目が4.7日で今年1月が12.3日。実に3倍に近い延び方です。

07090820709082070908207090820709082ざわざわ…。3倍にも…

1-e1397901276348取り調べた証人の数の変りようを見ておきましょう。1年目が1.6人で今年1月が3.1人です。調べる証人の数はほぼ2倍に増えている。裁判が当初からじわりじわりと長期化し、調べる証人の数なども確実に増えているということがよくわかります。

1-e1397901276348さて、皆さんご関心の裁判員出頭の実情です。究極の惨数のお話に入ります。ここは今回のお話のヤマですから、まずは最高裁のデータをそのまま示させていただきましょう。わかりにくい表ですので、横目でにらみながら私の説明を聞いて下さい。

001181 (何とか調子が出てきたかしら…)
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1-e1397901276348初めにイ欄です。7回に及ぶ「裁判員候補者名簿記載者数」の合計は197万906人。毎年23万~34万人ほどの国民に、候補者名簿にあんたの名前を載せたぞと通知しているということです。ぎょっとするくらい大きな最高裁判所の名前入りの封筒を約200万の国民に送りつけている。手続は民間会社丸投げ。初めの頃は郵便受けからはみ出るほどの大きさの封筒を使っていましたね。「最高裁」の文字がご近所で噂になると批判され、その後版を小さくしたいわく付きのしろもの。

1-e1397901276348中を見ずゴミ箱直行の人も多いようですが、出頭する気がまるっきりないとか、大病を患って大ケガもしているのに家族同様の者の結婚式に出なければならないとか、今このことを担架の上で書いているとか、一生懸命拒絶の理由を書いて送り返した人もいると聞きます。そういう訳で、まず最高裁はこの200万人の大半を一気に「反裁判員勢力」に追いやりました。その皆さんは、この国の国民の多くが病人やケガ人であることを率先して語ってくれた功労者です。ガツンと一発くらった政府・最高裁は完全にめげましたね。

1-e1397901276348ニ欄「調査票により辞退等が認められた裁判員候補者数」。いっせいに辞退の発信が始まり、ここで19万1624人の辞退が認められています。調査票には「辞退希望」なんていう書き込み欄はないのに、ここで「辞退等の申し出」をした多くの人たちがいて、実際最高裁はその人たちに了解の態度示しているのです。

1-e1397901276348ヘ欄「質問票により辞退等が認められた裁判員候補者数」。具体的な事件について、地裁から裁判員候補者としての出頭を求める赤紙(呼出状)が来ます。調査票に対しては、辞退希望を出しそびれた人や最高裁に辞退を通告したのに地裁から赤紙が送られてきた人などがいっせいに辞退等の申し出をします。結果、ここでも20万4202人の辞退が認められています。執念の拒絶通告とあきらめの辞退承認ですね。

1-e1397901276348地裁は、この辞退承認者を除いた残りの人々を裁判所に呼び出します。それがト欄「選任手続当日に出席を求められた裁判員候補者数」の数字。チ欄「選任手続期日に出席した裁判員候補者数」は、実際に出頭した人の数です。やりたくないと返事してきた人以外の人たちはみんな来てくれると思うのは甘い。音無の構えで黙殺する不逞の輩(ふていのやから)がたくさんいるんですね。最高裁は、拒絶されなかったのでそれなら大丈夫かと呼出状を送った対象者の何%が本当に出頭してきたのかを書き出しています。ご丁寧なことです。それがリ欄「出席率(%)」です。

1-e1397901276348先に(「チ」/「ト」)の方を見て下さい。これは、呼出状を送った人のうち選任期日当日にちゃんと来てくれた人の比率です。「出頭辞退をしてこなかった者のうち本当に出頭してきた者の割合」ということは、つまり「まじめ出勤率」ですね。それが1年目には83.9%だったのが今年1月まで下がりに下がり、ついに66,8%まで20ポイント近くも落ち込んだということです。階段を下りるような「規則的」な下落ぶり。言い換えれば、実にしっかりした足取りで「無断欠勤率」が年々上昇しているということ。

1-e1397901276348次に、同じリ欄の(「チ」/「ハ」)を見て下さい。これは出頭者をハ欄「選定された裁判員候補者数」で割った数字です。これは「地裁が裁判員候補者にしようと決めた(選定した)人のうち何人が本当に出頭したか」を示す数字です。この数字こそが裁判員候補者の出頭状況をリアルに示す最適のデータです。1年目には40.3%だったのが、今年1月にはとうとう23.5%まで落ち込みました。初めの40%もひどく低い数字ですが、今年1月には4分の1も割り込んでしまった。それも年々確実に大きななテンポで。今年始まったばかりの数字がこれでは、年末にはどういうことになるんでしょうか。

070911070911070911楽しみでーす。

1-e1397901276348楽しくて情けない話はまだ続きます。それは、選任期日に出頭してきたからと言ってそのみんなが裁判員をやってもよいと思っているのではないということ。出頭したのはやりたくないと言いにきただけだという裁判員候補者がいるのですね。なぜか最高裁はここにその数字を書き出していません。

1-e1397901276348具体的な事件でこの一連の数字を示してみましょう。米子市で昨年1月に起きた殺人事件の裁判員選任手続が今年2月18日に行われた。6人の裁判員と2人の補充裁判員がこの日選ばれましたが、この事件で選定された270人の裁判員候補者のうち、調査票に対する回答で早々と辞退を認められた人が101人に達し、実際に呼出状を送った人の数は166人に激減しました。

070911地裁が呼出状を送る前に半分近くを外しちゃったんですね。

1-e1397901276348そう。しかし、地裁の呼出にも辞退を求める人たちが続出、地裁はなんと124人もの候補者に辞退を認めました。そして、残る42人に出頭を求めたところ、当日出てきたのは26人だけでした。16人は無断で不出頭を決め込んだのです。

070911大人の不登校だ。

1-e1397901276348しかも出頭者のうち8人は当日選任の場で自分はやりたくないと言い、裁判所はこれを認めざるを得なくなりました。

070911やりたくないと言いにきただけの人ってことですね。

1-e1397901276348最後まで残ったのはたった18人。裁判所はそこから裁判員と補充裁判員計8人を選んだというのです。ほぼ2倍の選任率。「選任」なんてかっこいい言い方をするのも恥ずかしい実態。これが裁判員裁判のいつわらざる現実です。

070911すごい。やってもいいって言った人は結局270人のうち18人しかいなかったんだ。

1-e1397901276348最近、大谷直人判事とか小池裕判事とか、裁判員制度の導入に関わった裁判官の最高裁判事就任が続いています。大谷氏は最高裁刑事局長の頃に制度設計に携わった人。小池氏も最高裁の事務総局にいた時代に裁判員制度など司法制度改革に携わった人です。就任の記者会見で、大谷氏は「国民と裁判所の距離は確実に縮まった」と言い、小池氏は「裁判員制度は予想以上に円滑に動いている」と言いました。

070907えー。びっくり!

1-e1397901276348いかに自分の努力を否定されるのがつらくても、事実を認めない人たちや事実を正面から否定する人たちにいったい人を裁く資格があるのかという根本的な疑問を感じます。それにしても、「裁判員の言うことを唯々諾々と聞くな」という最近の最高裁の姿勢をこの人たちはどう引き継いで行くのでしょうね。
あっ、ベルが鳴っています。では、これで本日の「惨数の時間」の講義を終わります。

070907 (3)070907 (3)ありがとうございました。

001177 (ホッ)

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投稿:2015年4月6日