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裁判員のストレスと「苦役」に関する論文ご紹介

「障害を負うことになった裁判員経験者にとって、裁判員裁判への強制的参加は、憲法18条後段が禁じる『その意に反する苦役』にほかならない。」
深い怒りをもって断言する専門家の貴重な論考が公表されました。掲載誌は「横浜市立大学論叢(人文科学系列第66巻第2号;2015)37-73

論者は横浜市立大学医学部法医学科法医学教室の南部さおり先生。先生は同大学医学博士。明治大学法学修士の学位も持たれる「法」と「医」の専門家です。

論考のタイトルは「裁判員のストレスと『苦役』に関する一考察」。なお、先生は『裁判員裁判における医学鑑定と事実認定』など、裁判員裁判に関してほかにも論文も書いておられます(2011年 NCCD Japan)。

「裁判員をやってもよい」と思う人が激減している今こそ文字どおり必見・必読の論文です。

こちらからPDFで読むことができますので、ぜひご一読を。
(システムの関係で各章ごとに分割しております)
裁判員のストレスと『苦役』に関する一考察 (目次:緒言~1.)
裁判員のストレスと『苦役』に関する一考察 (目次:2.)
裁判員のストレスと『苦役』に関する一考察 (目次:3.)
裁判員のストレスと『苦役』に関する一考察 (目次:4.~結びに代えて)
裁判員のストレスと『苦役』に関する一考察 (【注釈】)
2015731.0

目次
緒言
1.福島県会津美里町・夫婦強盗殺人事件
(1)事件の概要
(2)裁判員裁判
(3)トラウマとなった証拠の内容
(4)私見:裁判員の心理的負担について
2.裁判員ストレス障害国賠訴訟
(1)Xさんの「損害」
(2)本件訴訟での争点
(3)憲法18条違反に関する当事者の主張2015731.1…
1)原告の主張
2)被告の主張
(4)当事者の主張に対する裁判所の判断(概要)
(5)私見
3.合衆国陪審員裁判における「残酷なビジュアル証拠」
(1)米国の陪審員のストレスに関する実情
(2)陪審員の審判後「危機報告会」(“Crisis Debriefing” of a Jury After a Trial)
(3)陪審員とPTSD
(4)私見:わが国の制度を顧みて
4.裁判員制度に関する検討会と平成25年見直し案
(1)第18回会議の内容
(2)「裁判員制度に関する検討会」取りまとめ報告書(案)
(3)私見:検討会の内容と取りまとめについて2015731.2
結びに代えて
【注釈】
saibanchou

 

 

 

 


 

投稿:2015年7月31日

崩壊した裁判員審理-小樽危険運転致死傷判決

1-e1397901276348昨年7月に小樽市内で起きたひき逃げ事件を覚えているかな。

006311000もちろん覚えています。飲酒運転で海水浴帰りの女性3人を死亡させ、1人を大けがさせた事件として世間がたいへん注目しました。危険運転致死を含む事件ということで、裁判員裁判になりましたし。

1-e1397901276348そう、そうなんだが、この事件ははじめから危険運転致死傷被告事件だったのではない。

006311000ということは、はじめは過失致死傷事件だった?

1-e1397901276348そう、過失致死傷は納得できない、危険運転致死傷事件に当たるはずだと遺族の皆さんなどが強く訴えたことでも注目された。

006311000で、検察は危険運転致死傷罪で起訴したんですか。

1-e1397901276348いやいや、そうはならなかった。検察は過失運転致死傷事件として起訴したんだ。

001181遺族の皆さんは反発したでしょうね。

1-e1397901276348大反発だった。起訴後も罪名を危険運転に変更せよと強く検察に迫った。

006311000で?

1-e1397901276348検察はついに遺族の主張を受け入れて起訴後に危険運転罪に罪名を変更した。

006311000へーっ。そんなことあるんだ。

1-e1397901276348珍しいことだ。検察は法律構成に悩んだ上、起訴後に遺族の言い分を受け入れるという対応をした。提訴が昨年8月、遺族が厳罰要求の7万人の署名を提出、そして10月に危険運転致死傷に訴因変更という経過をたどった。

001181この事件、今月9日の判決公判で、裁判所は危険運転致死傷を認定したんですよね。

1-e1397901276348そうだ。裁判員は検察の悩みを通り越し、実にあっさりと危険運転罪の成立を認めた。専門家は驚いたし、マスコミも拍子抜けという印象を持った。

006311000そこで、われらが本論の裁判員裁判の話になってくるという訳ですね。

へ?そういうことになるんだな・・・。

001181(何か心許ない返事…)それにしても交通犯罪の話はわかりにくいです。過失運転とか危険運転とか似たような名前が出てくるし、しかも判決が危険運転致死傷だっていうことは…。裁判員にはよくわかったのかしらね。

へ?そう、誰にもわかりにくい話さ。交通事故の犯罪にはいろんな罪名のものがあるし、それにひき逃げなどが加わると救護報告義務違反(道路交通法違反)も問われて併合罪加重なんていうこともあるし。

006311000なんですか、それ。

1-e13979012763482つの犯罪を犯していると、刑罰は重い方の50%増しにするという規定だ。重い方が最高20年なら30年まで行くことになる。

001181話がここまで来ると、にゃんこ先生にご登場願ってきちんと説明いただいた方がいいかも知れないですね。

1-e1397901276348、噂をすれば・・・。

0249091いやいや、何となく殺気を感じて、来てみたんだよ。

006311000先生、殺気を感じたら逃げなきゃダメですよ。それに先生、何か表のようなものも持ってきてるじゃないですか。準備が良いというか、良すぎるというか。

1-e1397901276348ごちゃごちゃ言うな、みなまで言うな。そろそろ説明時(どき)だと思って来てくださったっていうことさ。

001178まね0(インコさん、うまく逃げたわね)

1-e1397901276348にゃんこ先生。ではではよろしくお願いいたします。

0249091うむ。まず今話が出ていた犯罪の説明をしよう。2つの犯罪は、両方とも自動車運転支障行為処罰法という法律の中に出てくる犯罪じゃ。これは昨年5月20日に施行されたばかりのできたてほやほやの法律なのだ。j12345i

006311000ということは、これまで交通事故はなんという法律で処罰されていたんですか。

0249091明治以来の法律「刑法」だよ。それが、いろんな交通事故犯罪を1つにまとめ、この際新しい交通犯罪類型も作り、それらの全体を1つの法律にまとめてしまおうということになって、刑法から独立させた。それが自動車運転死傷行為処罰法なのだ。

006311000そんなことってあるんですか。

0249091警察庁が交通事故厳罰路線をばく進する中で、そういう話にたどり着いたのだ。この法律の主管官庁はいうまでもなく警察庁。

1-e1397901276348全部で6条しかない小所帯の法律ですね。危険運転致死傷は第2条と第3条、過失運転致死傷は第5条に規定されています。

0249091「危険罪」にもいろいろあるとされるが、アルコール関連の「危険罪」を言えば、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為を行って人を死亡させる」と20年以下の懲役というものだ。

006311000なるほど。

0249091第3条は「準危険運転致死傷罪」とも言われ、「アルコールの影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥り人を死亡させる」と15年以下の懲役とされている。

1-e13979012763481回聞いたくらいじゃ、2条と3条の違いはわかりませんね。

006311000いや、10回聞いてもわからないような気がします。

0249091さて、このアルコール関連の危険運転とは別に、第5条が過失運転致死傷を規定している。これは「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役もしくは禁錮あるいは100万円以下の罰金に処する」というものだ。

006311000これはわかります。このくらいのわかりやすさでモノを言ってほしいな。わかりにくいルールはルールじゃないっていうこと、警察庁はわからないのかな。

1-e1397901276348これが刑法で長く「業務上過失致死傷」という名前の犯罪で親しまれてきた罪名なんですね、歴史的に言えば。

001178まね0犯罪名を言う時に「親しまれた」って言いますかね。

1-e1397901276348それにしても「業務上過失致死傷」って新聞やテレビでずいぶん聞かされました。あれは今は使われていないんですか。

0249091現在も刑法に規定はある。自動車事故以外の原因で人が死亡したりケガをしたりした場合に限られて使われるのだ。うっかり火を出して人を死傷させてしまった時とかね。

1-e1397901276348わかりました。そうすると過失運転致死傷の刑罰は7年以下の懲役か禁錮、悪質さがそれほどでもなければ100万円以下の罰金ですね。危険運転致死傷にくらべるとずいぶん軽いですね。

0249091そうなのだ、そのために悲惨な被害を受けた被害者やその遺族の多くは、何とか過失運転致死傷ではなく危険運転致死傷で処罰させ、重罰で懲らしめたいという思いを強く持つ。

006311000なるほどなるほど、やっと少しわかってきました。

0249091さて、この「危険」と「過失」は、前者が危険な状態で運転することに故意がある、つまり、危険な状態で運転してよいと思っていることを必要とする犯罪で、後者はあくまでも不注意で結果を発生させた犯罪だというところで大違いの犯罪なのだが、「危険」の法律条文の作りがめちゃくちゃあいまいなために、要するに、どうとでも解釈できるような作りになっているために、とりわけ素人は簡単に「危険」の成立を認める傾向があり、裁判官もそれに引きずられる傾向がある。

1-e1397901276348あいまいというと。

0249091条文を読んでごらん。「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる」っていうけれど、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」とはどういう状態かきちんと説明できるかね。

1-e1397901276348「正常な運転」と「正常とは言えない運転」の違いは確かに簡単には言えませんね。私の友人の運転はいつも不正常なような気がしますし…。「困難な状態」というのもはっきりしません。「正常な運転がまったくできない状態」というのならまだ何とか判断できそうな気もしますが、「正常な運転が困難」かどうかをどういう基準で判定するのか、その判断は困難です。

001178まね0(冗談を言っている時ではないわよ)

0249091運転が正常かどうかということも、正常な運転が困難かどうかということも、およそあいまいの極といってよいものだろう。

001181「今日はお天気がはっきりしませんね」と言うときの「はっきりしない」の意味をはっきり説明しろというようなものですね。

0249091さてさて、本論の小樽事件の話に入ろう。判決は「運転開始前に飲んだ酒の影響により前方注視が困難な状態で時速約50ないし60キロメートルで自車を走行させ、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させたことにより、Y子、R子、S子、N子に気付かないまま同人らに自車左前部を衝突させた」と認定した。

006311000刑の量定は。

0249091求刑どおりの懲役22年だ。

00631100020年を超えるんですか。

0249091救護報告義務違反、つまり、ひき逃げと併合罪加重がされたのだ。

1-e1397901276348そして問題の「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させた」ことについてはどのように認定されたのですか。

0249091そこが最大・最重要の問題だよ。被告人は、公判中、「酔いはさめており、スマホを操作していて脇見をしていたのが事故の原因」だとして、過失運転致死傷しか成立しないと主張していた。検察も「スマホ操作による脇見運転」として過失運転罪で起訴していたのだったが、佐伯恒治裁判長は判決中で「よそ見のレベルをはるかに超えた危険な運転で、酒の影響しか考えられない」と述べた。

006311000その裁判所の判断は正しいのですか。

0249091メディアにリリースされた判決要旨を見る限り、ほとんどメチャクチャと言ってよい内容だ。

1500704メチャクチャ…

0249091事故44分後の測定で呼気1リットルあたり0.55ミリグラムのアルコールが検出されたという。僅かな酒量では決してないが、危険運転罪の事例では1.0ミリグラム程度のものもあり、平均すれば0.6ミリグラム程度のようだから、時間経過による濃度低下を考えても平均をいくらか下回る程度のものだったと言えるだろう。

006311000でも、そのアルコール保有だと酒気帯び運転罪は成立しますよね。

0249091もちろんだ。だがここで問題なのは危険運転罪が成立するかどうかだ。それはアルコールの保有量で当然に決まるものではない。

1-e1397901276348そう言えばさっきの危険運転罪の説明の中にはアルコール保有量のことは出ていませんでした。

0249091話を進めるぞ。ビーチを車で出た被告人は見通しのよい直線道路に入った。歩車道の区別のない幅4.7メートルのセンターラインのない道路を時速50~60キロメートルのスピードで走ったらしい。

001181双方通行の道路にしては幅が狭いですね。

0249091被告人は交差道路から直線道路に入り、440メートルほど走ったところで女性たち4人を後ろからはねた。

1500704うわっ。

0249091その運転が危険運転になるかどうかを考えるポイントは、被告人の「よそ見」が程度を越えたものだったかどうかということになったようだ。

006311000「よそ見」というと、つまり脇見運転をしていたということですか。

0249091判決要旨の説明はわかりにくいが、経過をまとめればこうなるだろう。被告人は直線道路に入って3~4秒後にスマホを取り出して右手から左手に持ちかえ、約3秒後にスマホに目を移して約5秒間スマホを見、一瞬(せいぜい1秒程度)右斜め前方の直近に視線を向けてまた4~5秒間スマホを見、また一瞬顔を上げてまたまた4~5秒間スマホに目を移した時に事故になったという。

006311000ややこし。いろんなことをしてると。

0249091いや、いろんなというほどでもない。ちらちら前をみながらスマホのLINE立ち上げをしようとしていたっていうことだ。所要時間の足し算をすれば、「3~4秒」+「約3秒」+「約5秒」+「約1秒」+「4~5秒」+「約1秒」+「4~5秒」=21~24秒だ。

1-e1397901276348ちょっと先生、時速50~60キロメートルのスピードで440メートル走ったんでしたよね。計算少し合わないんじゃないすか。

0249091ほう、よく気がついたね。時速50キロなら440メートル進むのに32秒程度かかる。時速60キロでも26秒程度かかる。中をとっても29秒程度だ。これは直線道路に入って直ちに50~60キロで走ったとしての計算だが、交差点で曲がった車は直ちに50~60キロになれる訳ではないから、実際には26~32秒よりもう少し時間がかかる。キミはそこら辺のことを言いたいのだろう。

1-e1397901276348そうです。さっきの数字は全部足しても21~24秒程度にしかなりませんでした。スマホを見るのにもっとかかったのか、それとも前を見るのにもっとかかけたのか、そのあたりはよくわかりませんが、とにかくもっと何かに時間をかけていたはずです。

0249091つまり、この判決はそれだけでもお粗末の批判を免れないということになる。さらに見過ごせないのは「よそ見」問題についての裁判所の判断だ。判決は「『よそ見』というレベルをはるかに超える危険極まりない行動としか言いようがない」と言う。「『よそ見』による過失運転」という被告人・弁護人の主張を排斥したくだりの表現だね。

006311000そこがどう問題なのですか。

0249091これはドライバーがちらっとどこかを見たその時に事故になってしまったというような事件じゃない、その「レベル」をはるかに超えていると言っているのだが、「レベル」を超えるというのはどういうことかがはっきりしないのが問題なのだ。

006311000でも、ちらちらほかのところを見ながら440メートルも走るのは危ないことじゃないかとは思いますが。

0249091それはそうだ。だがキミはアルコールによる危険運転罪の成立要件を忘れてはいないか。

006311000アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為でなければいけないということです。

0249091そう。この「ちらちらよそ見」が「スーパーよそ見」だということに仮になったとしても、だからと言ってそれがアルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為に当然になるものではない。

1500704うーん。

0249091考えてご覧。車内にはナビがあったりいろんなメーター類があったりするでしょう。ドライバーは走行中いつも前方を見ている訳じゃない。ちらちらとあっちを見たりこっちを見たりしている。灰皿にたばこを押しつけたりボトルに手を出したりもする。それがドライバーの普通の行動だ。「ながら運転」と言ってもよい。ドライバーたるもの前方視認など安全確保に心がけなければならないのは言うまでもないが、ドライバーの一般の行動を説明すればそういうことになる。

001181確かにそうです。そうでなければフロントパネルなんてお飾りっていうことになってしまいますものね。で、被告人は安全確認を怠ったと。でも安全確保が不十分だったのなら過失運転罪。アルコールの影響で正常な運転が困難な状態だったら危険運転罪。さーてと。

0249091被告人はちらちら前を見たという。ということは前を気にする注意意識はあったことを意味する。何度も見たということはすっかり気が抜けていたというのとはかなり違うということをも意味する。この速度で440メートルも走れたというのも「正常な運転が困難な状態」を否定する理由になる可能性がある。へろへろのドライバーだったらそんなに走る前に僅か4.7メートルの幅の道路の外に飛び出してしまう可能性があるからだ。

1-e1397901276348「酒を飲んで車を運転して人を死傷させるのは不埒な行動だ」ということを、「アルコールのために正常な運転が困難な状態の下の行動」だと直結・即断してはいけない、危険運転罪の成否はあくまでも「アルコールのために正常な運転が困難な状態の下の行動」であったかどうかを考えなければならないということですね。

0249091そうなのだよ。この判決はその点の考察をまったく行っていない。「よそ見」とはレベルが違うと言っているだけだ。これは厳密な司法判断と言えるようなシロモノではない。

006311000それにしても「正常な運転が困難な状態」とは何を指すのかはっきりしないですね。先生のお話を聞いて、そのことを強く感じるようになりました。

0249091大事なのは、法律専門家でもわかりにくいあいまい極まる話を裁判員が理解できるかということだ。この事件には、悩み抜いた検察が危険運転罪の適用を諦め、過失運転罪で起訴したという経緯があった。専門家が簡単に結論を出せないでいた問題に裁判員があっけらかんと答えを出してしまう怖さを私は強く感じる。

1-e1397901276348刑事裁判を市民が裁けるのかという疑問は、危険運転致死罪を俎上に乗せて考えると本当に歴然としてきます。

0249091そうだ。この判決に対し被告人は控訴したそうだが、私は当然だと思う。最後に付け加えておくが、判決要旨を読む限り、激しい調子で被告人をひたすら罵倒する形容句過剰の感情過多判決だ。司法は抑制的に必要なことだけを言うという考え方を大きく逸脱していると言わざるを得ないし、数日の審理で即判決というおざなり裁判を象徴しているとも言える。

おたけび2ありがとうございました。それにしてもこんな判決を出すところに裁判員裁判の終末風景がやっぱり見えますね。この事件を控訴審がどう判断するのか見守りたいと思います。

この判決の問題については、猪野亨弁護士も書かれています。こちらもご覧ください。
小樽ひき逃げ事件判決 懲役22年はともかく、その判決理由に疑問

 

投稿:2015年7月26日

制裁ゼロ 死ぬ苦しみは寝たふりして隠す

1-e1397901276348ジャーン。こういう条文を知っているか。      

次の各号のいずれかに当たる場合には、裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。

一 呼出しを受けた裁判員候補者が、第二十九条第一項(第三十八条第二項(第四十六条第二項において準用する場合を含む。)、第四十七条第二項及び第九十二条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、正当な理由がなく出頭しないとき。

二 呼出しを受けた選任予定裁判員が、第九十七条第五項の規定により読み替えて適用する第二十九条第一項の規定に違反して、正当な理由がなく出頭しないとき。

三 裁判員又は補充裁判員が、正当な理由がなく第三十九条第二項の宣誓を拒んだとき。

四 裁判員又は補充裁判員が、第五十二条の規定に違反して、正当な理由がなく、公判期日又は公判準備において裁判所がする証人その他の者の尋問若しくは検証の日時及び場所に出頭しないとき。

五 裁判員が、第六十三条第一項(第七十八条第五項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、正当な理由がなく、公判期日に出頭しないとき。

006311000シリマシェーン。

1-e1397901276348ふむふむ。わからないのにわかると言う方が見苦しい。おのれの無知を恥じるな。考えてご覧、私の知性の出番がなくなるのはそもそも世の損失だ。

001178まね0(インコさんに話させてあげようと、わからない振りをしてあげているのにそれがわからないんだよねぇ。話すとちょうつがいがどこか外れる…)

1-e1397901276348裁判員法第112条のことよ。あんまり関係がないところは省略してわかりやす~く説明してあげよう。最初の「次の各号のいずれかに当たる場合には、裁判所は、決定で、10万円以下の過料に処する」。これはいくら何でもわかるよな。

006311000はい、大丈夫です。

1-e1397901276348次は「一」だ。この「一」はこれだけで「いちごう」と読む。「二」は「にごう」。ちなみに算用数字で「1」とくるとこれは「いっこう」、「2」なら「にこう」。これは「ごう」よりランクが上。っていうか、「ごう」はこの場合とかあの場合とか、いろんなことを並べて掲げる場合に多く使われる。弟子一、弟子二、弟子三っていう具合にだな。

006311000ま、いいです。内容に入って下さい。

1-e1397901276348うん、まず呼び出しを受けた裁判員候補者が、裁判員等選任手続の期日に正当な理由がなく出頭しないときなどにこのペナルティーを受けるっていう訳だ。出頭義務は裁判員法第29条に規定されている。「一」はそう言っている。

006311000なるほど。

1-e1397901276348「二」は区分事件の審判に関することであんまり使われない規定だから、この際無視しよう。で、「三」。これは宣誓などに関する規定だ。裁判員法の39条2項は、裁判員たちは、「法令に従い公平誠実にその職務を行うことを誓う」という宣誓をしなければならないことになっている。

006311000へっ、宣誓…ですか。

1-e1397901276348そうだ。正当な理由なしに宣誓を拒むと最高10万円のペナルティーが科される。

006311000正当な理由がある宣誓拒否ってどんな場合ですか。後学のために教えて下さい。

お茶戦国時代以来の我が家の家訓として宣誓だけはするなってことになっている。先祖代々高校野球でも入社式でも宣誓だけは死んでもやるなと言われているというような場合だ。

焦る(ホントかしら)

1-e1397901276348ま、その程度の話と聞いておいてよろしい。そういう心配が基本的に無用だっていう話をこれから話すからね。四号は読んで字の如し。裁判員たちが正当な理由もなく公判期日などに出頭しないときにもやっぱり最高10万円のペナルティーが科される。

006311000これはわかりますよ、しっかりと。

1-e1397901276348では「五」にいこう。これは、審理が終わっても簡単に解放しない、判決言渡しなどに出頭してこないとこれも格好つかないから最高10万円のペナルティーだぞっていう規定だ。

006311000「制裁は続く~よ、ど~こまでもっ♪」ってわけっすね。

1-e1397901276348そう、まとめて言えば、裁判員法112条には「正当な理由もないのに裁判員等選任手続の期日に出頭してこなかったり、宣誓を拒んだり、判決言渡しの日にサボったりすると最高10万円の過料が科されるぞ」って書かれているのさ。

006311009ひょえー。だけどみんな出頭してないじゃないすか。新聞だってテレビだって宣誓を拒んで過料を払わされたとか判決日に裁判所に行かなかったのでペナルティーを取られたとか報道してないし…。そうか、日本中が家訓だらけだったのか…。

1-e1397901276348そこ、そこ、そこだぜ兄弟。インコは人間界の知り合いに頼んで、最高裁に過去のデータを開示せよと迫って貰ったね。

001177ほっほっほっ。で、どういう結果でした。

お茶きたいか、やっぱり聞きたいか。

006311000もったいぶらないで話して下さいよ。

1-e1397901276348次のそれぞれの質問にそれぞれの回答があったね。実際は質問も回答ももう少し詳しいのだが、意味が変わらない範囲で私が要約した。読んでくれ給え。ちなみに黒字が質問、最高裁の回答が赤字だ。

□ 各地方裁判所は、裁判員候補者が裁判員等選任手続期日に正当な理由なく出頭しないとか、裁判員が公判期日等に正当な理由なく出頭しないとかの実情についてどのように把握しているのか。また、最高裁判所はどのように把握しているのか。
 各事件の審理を担当する裁判所が書面とか電話とか直接とか、それぞれの方法で違反になるかどうか検討することになると思うが、個別に判断することなので一概には言えない。最高裁は過料に科した事件の報告を求めて把握しているだけ。

□ 「違反はあるが過料は科していない」のか、それとも「違反がないので過料を科していない」のか。前者なら把握しているはずの「違反と認めた件数」を明らかにされたい。また、前者については過料を科さなかった理由をどのように把握しているのか明らかにされたい。
違反はあるが過料は科していないのかとか、違反がないので過料を科していないのかとか、そういう点について最高裁は把握していない。

□ 最高裁判所は、各地裁の裁判所(裁判体)に、裁判員法第112条違反の有無や実情などについて、どのように把握せよと指示し、実際、最高裁としてどのように集約しているのか。
把握や判断は各地の裁判体の判断事項なので指示を出す立場にない。最高裁が行っているのは、実際に過料を科した事件の報告を求めることだけ。

□ 裁判員法は、「最高裁判所は、毎年、裁判員裁判の実施状況の資料を公表する」と定めている(103条)。不出頭理由の資料は公表しているか。していなければそれは定めに反することにならないか。
毎年、「裁判員裁判の実施状況等に関する資料」の「第4.その他」の中で「裁判員候補者及び裁判員等に対する制裁を行ったとして報告がされた事件はなかった」ことを公表している。具体的にどのような資料を公表するかは、大学教授やジャーナリスト等を含む幅広い分野の有識者が参加する「裁判員裁判の運用等に関する有識者懇談会」の助言を受けて定めている。

1-e1397901276348どう思うかね。ひよこくん、この回答を。

006311009うーん、ヘンだ、なんともヘンです。

1-e1397901276348どうヘンなのか、解説してみて下さい。

006311000なんと言っても過料が1件も科されていないっていうおかしさです。4人のうち3人が出頭してこなくてもみんな正当。裁判員たちがどんどん辞めて、誰もいなくなってもみんな正当。どうなっちゃってんのっていう話ですよね。

001177いくら何でもこれはおかしいぞって世界ですよね。

006311000それから、この回答がウソでないとすると、にも関わらず最高裁が信じられないくらいのほほんと構えてるっていうことです。

001177本当にそうですね。違反したら制裁が科されるという規定がある以上、その決まりがどのように運用されているのか、それとも運用されていないのかについて、現状を調べて適切に指導するのは最高裁の当然の責任のはずです。

1-e1397901276348人をバカにしたような不出頭通告をした人とか、ほかの裁判員や補充裁判員にたいへんな迷惑をかけた脱走裁判員とか、「メチャクチャ話」が現場にたくさん発生しているはず。最高裁としてはなにからなにまでしつこいくらい指導をしているはずだ。

006311000この報告は112条をめぐる現場の本当の姿を隠しているという印象がどうしてもぬぐえません。

001177最高裁刑事局の不処罰方針の現場指導が少しもうかがえないようにカーテンが引かれているっていうことでしょうかしら。

006311000「裁判員裁判の運用等に関する有識者懇談会」っていうのは何ですか。最高裁が隠れ蓑にしているように見えますが。

1-e1397901276348裁判員裁判実施の直前の時期に、制度の運用などについて助言を受けるために立ち上げた最高裁の諮問組織さ。大学教授やジャーナリストなんて言っているけれど、制度推進の先頭に立ってきた実務家が中心の組織。制度の延命に汲々としている最高裁に不都合なことなど言う訳がない。

006311009うーん。

1-e1397901276348最近の出席者の名前を紹介しておこう。法律実務家として、刑事法学者の坂巻匡や椎橋隆幸、弁護士の竹之内明、元裁判官の龍岡資晃、最高検公判部長の三浦守など。それに元読売新聞論説委員桝井成夫、労働政策の研究家今田幸子、心理学の内田伸子などという顔ぶれさ。

006311000制裁をしたかどうか以前に、正当な理由のない不出頭などがなかったかどうかについて、現場の実情がどうなっているのか気にする人たちなんていないのですか。

1-e1397901276348いるわけないさ。そんなことを言いそうな人は最高裁が選ばないからね。そういうのを最高裁は「有識者」と言わないのだよ。

006311000そうか、こんなところにも断末魔を隠蔽しようとあがく最高裁の姿が透けて見えるんですね。

1-e1397901276348そうさ、彼らは常にちょうつがいが外れているんだ。

1505013なるほどねぇ

 

 

 

 

投稿:2015年7月10日

制度廃止への道のりを図解する

1-e1397901276348「裁判員いらないインコのウェヴ大運動」開始2周年を記念し、裁判員制度の廃止への道のりを一挙表示という大胆な方法でご紹介しましょう。

1505013どこが大胆なのやら。

1-e1397901276348パンパカパーン、パン・パン・パン・パーン! はい、これです。

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006311000これは鸚鵡大学本館階段の側面図ですか。

1-e1397901276348よく見なさい。裁判が始まってから最近までの出頭率の変化をグラフにしたものだ。横軸は年(西暦)、縦軸は裁判員候補者の出頭率(%)、出頭者は赤色部分、不出頭者は青色部分だ。裁判員裁判に呼び出されて出頭る人たちがどんどん減っている様子が一目瞭然でしょ。こういうのを階段を転げ落ちるようにっていうの。

006311000この縦軸の%の意味を説明して下さい。

1-e1397901276348これは、地方裁判所が審理開始に当たって裁判員候補者名簿の中から選定する裁判員候補者の数を分母にして、裁判員選任期日に出頭してくる候補者の数を分子にした数値なのだ。

006311000裁判員候補者名簿は最高裁が全国の地裁に送るんですよね。

1-e1397901276348そう、その候補者名簿の中から、各地裁の裁判官が、「この事件は3日で終わる予定だから呼び出し人数は100人で行こう」とか、「これは審理が20日間予定されているんで、でてけーへん奴が多いやろから300人呼び出さないとあかんやろ」とか、いろいろ考えて実際の候補者を選定する。これが分母。

001177で、裁判員選任期日に出頭してくる人数を分子にするっていうことは、選定された候補者のうち実際に裁判所に出かけてくる人の数を調べてその比率を見たっていうことなんですね。

006311000裁判員法は「出頭」という言葉を使っているのに、最高裁は人聞きの悪さを気にしてか、「出席」という言葉を使ってるんでしたよね。

1-e1397901276348そうなんだ。用語方法にひどくこだわる役人には不思議な「読み替え」を断行している。裁判員法は裁判官と書記官には「列席」、検察官と弁護人と被告人には「出席」という言葉を使い(裁判員法32条)、裁判員候補者には「出頭」という言葉を使って(同法29条)、明確に使い分けをしている。

006311009「列席」「出席」「出頭」ですか…。

1-e1397901276348法律は「出頭」というけれど、「頭を出せ」とはなんとも上から目線、というよりほとんど脳天目線だ。この際少しでも嫌がられへんようにと彼らなりに苦労したんや、甲斐のない苦労やけどな。

006311000わかりました、わかりました。で、その出頭率が年々美しい規則性をもって減ってきてるんですね。

1-e1397901276348こういう時に使う言葉かどうかということはあるが、確かに美しい規則性だ。この下り階段は出発点の所からひどく低いところにあったことに注意してほしいね。開始時点でも選定された候補者の40%ちょっとしか出頭しない状況だったのだよ。

001177小さく産んで大きく育てるというのはあるけど、低く始まり順調に痩せるというのは情けない話です。ずいぶんお金を掛けて大宣伝をしたというのに。

1-e1397901276348いや、知ったおかげでみんなイヤになったというのがもっぱらの見方なのだ。周知徹底の結果の不評判。

001177開始から2年経った2011年3月、東日本大震災・福島第一原発爆発事故が起きました。その瞬間から東北3県に限らず日本中が裁判員どころじゃないってことになりました。

1-e1397901276348制度崩壊の危機感は直ちに三宅坂を襲った。彼らは、国民に不安を押しつける裁判員制度は、国民の生命と健康と経済を不安のどん底にたたき込むこの事件の前で、それこそ立ち往生してしまうのではないかという恐怖に襲われた。

006311009悪いことを考えている人たちほど、悪事が続かないことへの不安が強い…。

1-e1397901276348このままでは制度は確実に崩壊すると読んだ竹崎長官は、3月中に「被災地でも裁判をやれるところから再開する」と言い切った。その言葉は東北地方の裁判所を中心に部内からも激しい反発を引き起し、彼は「被災者の皆さんの生活再建を祈ります」なんてとってつけたような言葉で言い直したけれど、この時はここで踏ん張って物を言わなければ制度が完全に宙に浮いてしまうと思い詰めたのだろう。

006311000竹崎長官は、これでこの制度は終わりだと思ったのではないでしょうか。

1-e1397901276348さぁ、どうだろう。その年11月、最高裁大法廷は、全員一致・補足意見ゼロという大本営発表のような「裁判員制度合憲」判決を言い渡した。それは制度が立ちゆかなくならないように、違憲論をこの際きれいにぬぐい去っておきたいという思惑が行間に漂う判決文だった。この判決の問題点についてはインコはたくさん紹介しているのでそちらを見て下さい。

006311000この最高裁判決は、最高裁も原発推進の一役を買っていたのではと取りざたされる中のことでしたよね。

1-e1397901276348そう、国民の生活を不安に突き落とした原子力村の住人の中には最高裁もすました顔をして入っている、最高裁は原発推進勢力の一員だという声が高まる中の判決だった。どう考えてもこの判決は国民を制度賛成に誘うものにはならなかった、というよりもこの判決のために国民の最高裁不信はむしろ強まることになったというのが実態だろうね。

001177データを見ると、2011年は選任期日の出頭者が対前年比で4.8ポイントも下がっています。4~12月に絞ったら5ポイント超えは確実だったでしょう。制度が音をたてて崩れて行く様子を目の当たりにするようです。

1-e13979012763483か月後、年は変わって2012年2月だが、最高裁は覚せい剤密輸の事件で、1審無罪をひっくり返して有罪にした高裁判決を再逆転させて裁判員裁判の無罪を支持した。判決は裁判員の判断はできる限り尊重せよと言ったのだ。

001177当時の最高裁としては、裁判員制度定着のためにはやれることはなんでもやり、言えることは何でも言おうという姿勢だったのでしょうね。

006311000そのやり方や言い方は裁判員の参加促進の面で結局功を奏したのですか。

1-e1397901276348データを見給え。最高裁の大法廷判決や裁判員裁判尊重判決にもかかわらず、2012年の出頭率はまたまた2.9ポイントも下がった、イヤなものはイヤとことだ。

006311000ところで、最高裁は本当のところ、そんなに「裁判員さまさま」「裁判員さまのお通りーっ」て感じだったんですか。

1-e1397901276348それも違う。国民の審判能力はレベルが低くて裁判などに耐えられないというのが最高裁の基本的な姿勢だった。国民の司法だの、陪審制の一里塚だのとはしゃぐ勢力の力も借りてムリムリこの制度を発足させたため、このあたりでひずみや亀裂がごまかしようもなくなってしまった。

006311000ということは?

1-e1397901276348この時期ころから、最高裁はホンネをあからさまに言うようになってゆく。2012年の12月には、最高裁事務総局は「裁判員裁判実施状況の検証報告書」を出して、「裁判員裁判の結果は、これまでの裁判と極端に異なっているわけでもない」と評価した。

006311000これまでと変わっていないことを評価した…。

1-e1397901276348そう、そして彼らがホンネを吐露し始めるのと国民の側からの目に見える反撃が対向する関係になってゆく。福島・郡山の女性は死刑求刑事件で裁判員をつとめて重いストレス障害を発症したことを理由に国家賠償訴訟を提起すると発言した。その言葉に慌てた竹崎長官は、事実を確かめることもせず現場に指示を出した。

006311009事実を確かめもせず…。

001177そうですよね、およそ裁判官らしからぬ対応でした。それも福島・郡山の元裁判員が提訴したいと考えていると言っただけなのにです。

006311000で、なんと指示を。

1-e1397901276348「裁判員裁判が終わってしばらくしたら元裁判員に連絡をとって様子を聞け」というのだ。大震災が1番手最初の打撃とすれば、これが彼らには2番手の伏兵攻撃。マクベス風に言えば「バーナムの森が城に向かって動いた」のさ。

0011772014年1月には水戸地裁で裁判員全員が辞任を申し出る事件が発生、裁判員をすべて選びなおすことになりました。もはやここまでと竹崎長官は定年を待たずに退官。4月には寺田逸郎最高裁判事が長官になり、出前講義を指令しましたね。その惨憺たる経過は前回ご紹介のとおりです。

006311000どんどん落ち込んで行くじゃないですか。

1-e1397901276348この年7月には最高裁は、裁判員裁判の求刑越え判決を否定して、求刑内におさめる判決を言い渡した。裁判員の暴走を否定し、裁判員に引きずられる裁判官をたしなめ、裁判には自ずからある常識に従えと命じた。この年9月には先の福島元裁判員のストレス障害裁判で原告がまじめに裁判員の職責をやり遂げたことがストレス障害の原因だと認定しながら、原告の請求を棄却した。

001177そりゃいくらなんでも涙雨さんざんです。そういうことになれば、国民としてはもう裁判所に行かないにこしたことはないと思うようになります。裁判員をやって叱られ、裁判員の仕事は重大なストレス要因になると言われ、でもそのため病気になってもその責任を国はとらないと言われては。

006311000何を言われても文句は言わない、ひたすら人を裁いて見たいと思うような人だけが残る。この制度の目標はそんな裁判員たちにこの国の重大刑事裁判に関わらせることにあったんすか。

001177違います。いろんな意見を平均的に裁判に反映させたいというのが最高裁の説明でした。だから権利ではなく義務にしたと政府は国会で答弁しています。平均的な国民をもっと国寄りに考える人にしたいという狙いからすれば、それは当然のことでしょう。だから現状は、最高裁にとってもまるきり思惑外れの状況にあるのです。

006311000誰から見てもめちゃくちゃ状態じゃないですか、そうすると。

1-e1397901276348そのとおり。そして、それを決定的にしたのが、量刑判断に当たっては過去の裁判官裁判の量刑判断を尊重せよと言った今年2月の最高裁判決なのです。これは裁判員裁判を支える世論作りの先頭に立っていたマスコミや日弁連を大きな困惑・混乱に追い込みました。

006311000マスコミや日弁連を困惑・混乱に…

1-e1397901276348一般国民に量刑判断なんてできないというのは、制度導入前から批判派に強く指摘されていたことでした。そこをごまかしごまかしやってきたのだが、その結果到達したのは重罰化だった。求刑越え判決の続出はその典型例。提灯を担いだマスコミと日弁連にはその結果に大きな責任がある。

006311000うーん。

1-e1397901276348最高裁の昨年7月の判決と今年2月の判決は国民の裁判員裁判離れを決定的にした。今年に入って出頭率の低下があらためて著しい。1~4月までのデータだけでも昨年より3.1ポイントも下がっている。たった4か月で対前年比3ポイント超減というのは東日本大震災・福島第一原発事故以来だ。今年末には2011年の4.8ポイント下げの記録を更新するのではないかと関係者は噂している。

006311000なんか、聞いていると、最高裁は、国民の裁判員裁判への参加意欲を自分でどんどん失わせているような気がします。

お茶おぉ、わが優秀なる愛弟子よ。

006311009なんでしょうか、私のことっすか(にゃんこ先生の愛弟子だったのに、いつから先輩の愛弟子にされちまったのか・・・)。

1-e1397901276348そうだ、キミの勘は私に似てすばらしいぞ。インコは、どうも最高裁自身がこの制度を潰す側に回ったなという感じを持っている。少なくとも潰れる状態を予期して事後処理を考える状態に突入している。彼らはそんなこと死んでも言えないけれど、制度は死んでもいいと思い始めている。

006311000ちょっと説明をわかりやすくしてもらえませんか。

1-e1397901276348彼らが考えているのは、不出頭をとりあえず誰も処罰せず、変な判決を出さないように現場の裁判官の尻を叩き、それでも参加者が激減したら、この制度は一定の目的を達成したとかなんとか言って幕を引く。そして、この間に彼らが獲得した超迅速審理だの整理手続きだのという刑事司法改悪の悪らつな産物だけは死守しようとする。そんなことではないかと。

1500704(みんな深く羽根組みをする。)

001177とにかく、裁判員裁判をやりきろうという気迫が裁判官にも検察官にもありません。弁護人は一部の弁護士しかやっていませんが、やっている人たちも多くはこれは本当の刑事裁判ではないと思っています。それが現実なのです。

006311000ということは、制度廃止の後におかしなことをさせないというのが私たちの次の課題になるということですか。

1-e1397901276348そうそう、勝って兜の緒を締めると昔の人は言った。魂を悪魔に預けてこの制度を推進してきたマスコミや日弁連はそんなことできないからね。

006311000それにしても、この階段の下り勾配はきついっすねぇ。ホップ・ステップ・ジャンプで廃止に飛び込むんですか。

1-e1397901276348ホップ・ステップ・ジャンプっていう言葉の本当の使い方はよく知らんが、まあよいとしようか、これは私たちにはとってもよいことだからね。

 

投稿:2015年7月4日