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基本的な制度矛盾を心理学の専門家が分析する

001177「法と心理学会」の学会誌『法と心理』(第15巻第1号)の特集「手続二分論とその視点-法学と心理学からのアプローチ」に裁判員制度に関する興味深い論文が掲載されています。今日はそれをテーマにお話ししたいと思います。06989

00631100「手続二分論」って何ですか。

1-e1397901276348事実認定の審理手続と量刑の審理手続を完全に分離すれば、被告人に有罪という結論が出るまでは被告人の責任の程度に関する審理はしないことになる。しかし、裁判員裁判は事実認定の審理手続と量刑の審理手続を分けていないから、被告人が無罪の主張をしているのに被害者は被告人に極刑を求める意見を言うことができる。それはおかしい、事実認定と量刑判断はきちんと分けるべきだというのが手続二分論だ。

0063118わかりました。で、今日はその二分論を俎上に載せるのですか。

001177

いえ、この特集の中に、「裁判員は何を参照し、何によって満足するのか」というレポートがあります。関西学院大学大学院文学研究科の村山綾さん(応用心理科学研究センター博士研究員)と三浦麻子さん(関西学院大学文学部教授)によるものです。お二人の専攻は社会心理学。今回はこのレポートを取り上げようと思うのです。

0063118心理学者の分析と言われると確かに興味が沸くなあ。

001177

この研究の目的は「裁判員裁判を模した専門家-非専門家の評議過程において、(1)非専門家が有罪・無罪判断に用いる材料が事前の意見分布や評議前後の意見変容のパターンによって異なるかどうかを検討することと、(2)裁判員の主観的成果の指標として満足度に着目し、評議の満足度を高める要因を多面的に検討すること」だと説明しています。

0063118裁判官と裁判員を対置し、裁判員が何に満足するのかを考えると。で、どういう方法で検討したのですか。

001177

裁判官役1人と裁判員役3人のグループを30作り、有罪・無罪を判定する評議実験をしたそうです。

0063118大がかりですね。で、その結論はどうなったのでしょうか。

001177

非専門家は、専門家や多数派の意見を参考に自らの判断を行うこと、評議に関する満足度には専門家に対する信頼の程度や、専門家や自分と同じ非専門家との意見の相違などが影響することが示されたそうです。

0063118専門家や多数派の意見を参考に自らの判断を行うというのは興味深いところです。

001177評議の非公開と守秘義務のために、評議の展開や評決に至る過程も問題点も明らかになりにくいと指摘したうえ、裁判員制度は欧米の市民参加制度とは異なり、裁判官と裁判員の合議によって行われたり多数決制を採用したりする独自のものなので、外国の研究をそのまま我が国に適用して議論するのは難しいとされます。

0063118本当にそのとおりだと思います。日弁連の制度推進派などは、陪審制と裁判員制度の根本的な違いを完全に無視しているし。

001177また、日本の先行研究を見ても実証的な研究は遅れているとされます。

00631100遅れているというよりも研究する気がまるっきりないんじゃないですか。陪審員と裁判員を同視して何とも思わない人たちの話を何度も聞かされてきたボクとしては、こういう話を聞くと胸がすっきりします。

001177大学生3人(非専門家)と司法試験合格者1人(専門家)の30集団を作り、評議実験を実施したそうです。そして、非専門家は評議を通して専門家と同様の判断に意見を変容させやすく、また専門家と同様の判断で評議を終えた場合に自分の判断に対する確信度が評議前より高くなり、これらは裁判所が評議の前提として掲げる「平等な立場」が維持されていることに疑問を投げかけるものだと結論づけています。

1-e1397901276348裁判員は裁判官の意見に同調しやすく、裁判官と同じ意見になると自分の意見にいっそう自信を持つ、裁判官と裁判員が平等だなんてウソだという話だろう。おもしろい話だが、あまりにも当然の結論だ。

001177これまでの研究は、裁判員の評議後の意見変化や確信の変化だけを分析対象にしていて、具体的な評議の過程には触れていない。実際には裁判員の多数意見とか裁判官の意見は結論に大きな影響を及ぼすと考えられる。そこでさらに進んで、裁判員が参照したり重視したりする事項を検討対象にしてさらに分析すると言っています。

0063118なるほど。

001177レポーターは次のように言っています。裁判員は裁判官と協同して客観的な成果を提出する。成果達成感や他の裁判員との関わり合いの満足度も大事だが、アンケート調査の結果を見るとその満足度が年々下がっている。成果感の低下は評議に十分参加できていないことを感じさせる。市民感覚を評決に反映させるのは裁判員制度の目的の1つとされているが、成果感の低下は裁判員制度への評価の低下や司法への信頼の低下をうかがわせる。

0063118いちいち納得だなぁ。

001177成果感が高まらない場合というのは、意見表明が十分できないとか少数意見のまま評議が終わる場合が考えられるとし、また裁判官の言動やそれを通して裁判員が抱く裁判官への印象も影響を与える可能性があるとしています。

1-e1397901276348時間をかけないで結論を急ごうとしたり、多数決押し切りを断行しようとしたりすれば、成果感なんてそれこそすっ飛ぶだろうよ。

001177模擬評議の結果によると、満足度が低かった裁判員は、はじめから裁判官の判断が結論になるように決まっていたという印象を持ったとインタビュアーに答えたそうです。また、評議中に違う意見を持っても言葉に出せなかった時もあったそうです。

1-e1397901276348行きたくない人たちはもうみんな行かない。出頭する人は参加意思というか参加意欲を持っている人たちだ、そういう人たちが評議から外されているように感じたときの不満感というのは以前に比べてずっと強くなっている可能性がある。

001177そうですね。いやでいやで仕方がないのに選ばれちゃった裁判員なら、法廷でも評議でも私を無視して進んでほしいって、そんなことしか考えていないかも知れません。

1-e1397901276348学者っていう人たちは、すぐにわかるようなことを理屈っぽく分析して見せるもんだ。ま、そういう説明のおかげで当たり前のことが当たり前だと公認されることになるのなら、それはそれでいいけど。

001177ある模擬裁判の会話率調査では、裁判官がしゃべっている時が全体の67%、ある裁判員は1%だったそうで、評議の中心に裁判官がいるのは明らかだと結論づけています。レポーターはこのことを踏まえて、①裁判官と裁判員の意見の違い、②お互いの対話の形や量、そして③裁判官に対する裁判員の信頼を分析しています。

1-e1397901276348へぇー。それで。

001177実験をしました。裁判官は1人、裁判員は4人。6条件各5集団の計30集団。ケースは覚醒剤密輸事件。同一事件でもう有罪になっているAと目の前の被告人の間に共謀・幇助があったかどうかを判断するという設定です。

1-e1397901276348よくありそうな事件だ。

001177実際にあった事件をアレンジしたもののようです。実験の内容や測定事項、測定項目、結果の解説はかなり専門的なので、ここでは省略させていただきます。

1-e1397901276348解説の詳細を知りたければ、この論文を読めと言うことだな。

001177そのとおりです。実験結果に関する考察について、レポーターは次のように述べています。裁判員が何を参照して自分の結論を出すのかということについては、多数派の中に裁判官がいると裁判官の意見が参考にされやすく、裁判員だけで多数派が形成されていればその多数派の意見が参考にされやすい。

0063118多数派に引っ張られやすく、裁判官がそこにいるとなお引っ張られやすいと。

001177そういうことなんでしょうね。また、次のような興味深い報告があります。無罪から有罪に意見を変えた裁判員は、公判中の証人や被告人の供述や物証よりも裁判官の意見を重視する傾向がある。また、最終的に有罪判断に落ち着いた裁判員は裁判官の意見を重視していると。

1-e1397901276348要するに、裁判員裁判の実態は完全に裁判官優位ということだ。最高裁が描いた裁判員裁判の実態は、目的通りに貫徹されているということになる。

001177評議に対する満足度に影響を及ぼす要因を分析すると、有罪・無罪の判断だけではなく、満足度という主観面でも裁判官の影響を強く受けていて、「平等な立場」の評議が難しい可能性を示唆しているとレポーターは言っています。

00631100「市民参加」万歳なんてはしゃいでいた人たちは、こういう分析をどう受け止めるんだろう。

001177発話量が満足度に影響を与えていないというデータから、レポーターは、コミュニケーションそのものがスムーズに行われていない可能性を推定しています。評議の過程は裁判官や他の裁判員と同じ結論を出すための単なる「確認」の場にとどまっている可能性が高いと言うのです。

1-e1397901276348それみろということだ。

001177また、実験のケースは単純な事案を想定しているが、複雑な実際の事件では裁判員はよりいっそう聞き役に終始し、裁判官と裁判員のコミュニケーションはよりいっそう不均衡になるだろうと推測していますね。そして、評議に対して実質的な意味を持つ裁判員の発言が増えなければ評議への満足度は上がらないと結論づけています。

1-e1397901276348最高裁は、裁判員の勝手な議論を絶対に評価しない。裁判官の掌(たなごころ)の中で踊っている限度の中でこの制度の意義を認める。そして、実験をしてみると果たしてそのようになっている。日弁連の推進派にはこういう分析をまじめに考える精神がまるっきりないだろう。

0063118それにしても今回の研究者の分析は興味深いものです。裁判員裁判の実相が隠されている現状のもとで、何とか実態を暴き出そうという努力が試みられているということがわかりました。

1-e1397901276348それもそうだが、いまや現実の裁判員裁判に参加している裁判員の多くは「異様」な人たちだ。その異様さを反映させるとどうなるかという分析も必要になるだろう。

001181その「異様」の尺度の決め方も難しいですね。

1-e1397901276348確かに難しい。おかしな制度も一旦できてしまうとおかしさの証明はとても難しくなってしまうということだ。その突破口はどこにあるかというと、みんなの拒絶だ。とことん拒絶だ。拒絶率が推進派の想定をはるかに超える水準に達した時に、平然を取り繕ってきた彼らも悲鳴を上げる。もう少しのことだ。

001177その愁嘆場を目の当たりに見たいものですね。

0063118もうすぐですね。早く並んでいい席を取りましょう。

読書うさぎ(だれがうまいこと言えと…)

 

 

投稿:2016年4月29日

裁判員制度の現状を日弁連はどう捉えているか-その4

0063118「裁判員裁判の現状を掘り下げながら、適正な弁護活動をするために今何が必要かについても具体的に検討する」という特集、『自由と正義』(2016年1月号)の「裁判員裁判の現状と課題」もついに最後の論文になりました。

1-e1397901276348 これまでのところ裁判員裁判の現状を掘り下げるとは何のことかというような話が続いている。とんでもない結論で終わる気配が濃厚だな。

006311009気配濃厚って、読んでないっていうことですか。

1-e1397901276348 前回の君の解説に感心して、最後は優秀な君に任せようかと…。これを有終の美という。

006311009先輩は手を抜いたっていうことじゃないんですか。

1-e1397901276348 いやいや、それが古来すぐれた指導者の要諦なのだ。

0063118仕方ありません、ボクが読んだところをご紹介します。第4は「弁護士会の研修の在り方について」です。金沢弁護士会の奥村回さんのレポート。これph-allは「弁護士・弁護士会の義務」で始まります。

1-e1397901276348 うーむ、怪しげだな。

0063118「憲法37条は刑事被告人の弁護人依頼権を規定する。
国連の弁護士基本原則の第1原則もすべての人が弁護士の援助を受ける権利を持つと規定する」。

1-e1397901276348 当然のことだ。国家権力は被疑者や被告人や囚人などの基本的人権を踏みにじり、ほしいままに市民の身体の自由はおろか生命まで奪ってきた。国家権力というと抽象的になるが、政府と言えばわかりやすいんじゃないかな。イメージが急にはっきりしてきただろ。

0063118はっきりしてきました。

1-e1397901276348 絶対王政下では言うまでもないが、近代国家でも権力が睨んだ者を監獄や死刑台に送り込むのは日常茶飯のこと。現代だって例外でない。ナチス、イスラエル、イラク、米国、日本そして中国。いまこの瞬間も世界中で政府による無法の刑事人権侵害が続いている。

0063118本も米国もですか。

1-e1397901276348 日本か。弁護人がついていなくても刑事裁判をやっていいことにしようと政府が刑事訴訟法の改悪案を国会に提出したのは1978年だ。「弁護人抜き裁判法案」と言った。米国か。この国は世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んだ9.11以来、刑事基本権は死んだと言われている。何でもありの国になった。

006311009シーさんとかキムさんとかのお国でなくても、政府は常に人権侵害を志向するものだと。

1-e1397901276348 弁護人依頼権の思想は、戦争に走る政府に戦争放棄のくさびを打ち込む思想と同じさ。では話を続けたまえ。

006311009続けたまえって、先輩がボクの話に割り込んだんですよ。話はここから突然、国の義務から弁護士や弁護士会の義務に移ってしまいます。「刑事訴訟法31条は『弁護人は弁護士の中から選任される』と定める。憲法・刑訴法は弁護士という資格に被疑者等の弁護享受権を全うする弁護提供義務を求めていることになる」と。

お茶なんだ、その「弁護享受権」とか「弁護提供義務」とかいうのは。

0063118国家により刑罰を科せられる可能性のある人に保障されている「効果的で十分な弁護を受ける権利」をこの方は「弁護享受権」と命名しています。一般的用語ではないが、単なる弁護依頼権を超えて効果的かつ十分な弁護を受ける権利だということを強調するためにこのように呼ぶことにするんですって。「弁護提供義務」はそういう弁護を提供する義務ということでしょうね。

1-e1397901276348 一般的用語ではない言葉を敢えて使いたいとな。弁護人依頼権ではなく「弁護享受権」という言葉をわざわざ作る目的は何だ。もう少し聞こう。

0063118クムラさんは、弁護士が被疑者・被告人の権利利益を守るため最善の弁護活動に努めることを定めた日弁連の「弁護士職務基本規程46条」を引用し、本人が最善を尽くしたと言っているだけではダメで、平均的水準の刑事弁護人が合理的に考える「最善」でなければならないと言っています。

1-e1397901276348 うーむ。

0063118らにオクムラさんは、弁護士は法令・法律実務に精通せよとか研鑽せよとか規定する弁護士法2条や職務基本規程7条を取り上げ、弁護士法31条により弁護士会は被疑者・被告人の「弁護享受権」に応えるように弁護士を指導監督する義務を負うとも言っています。

1-e1397901276348 また「弁護享受権」か。ようやくわかってきたぞ。ここにはとんでもない話のすり替えがある。

0063118護士がよりよい弁護活動をするとか、それを弁護士会が応援するとかいうのは、正しいことのように思いますが。

1-e1397901276348 そういう議論をする限りでは正しい。だが、ここでいう「弁護享受権」とか「弁護提供義務」とかいう言葉にはまったくもってよからぬ企みがある。

0063118というと。

20160201人権保障を怠らず真相を発見し正しい責任判断を行う義務は検察にも裁判所にも厳然とある。それは刑事司法・刑事裁判における国家の基本的な責務だ。その一環として、国には被疑者・被告人に刑事弁護を保障する義務があることになる。

0063118「弁護享受権」というのは、ただ弁護士を依頼できる権利ではなく、良い弁護・十分な弁護を受ける権利という意味なんですね。ということは、良い弁護・十分な弁護を与える義務があるということになる。誰にその義務があるのか。

1-e1397901276348 そう、その義務は誰にあるのかというところが正に大問題だ。「被疑者・被告人を守るのは弁護人だ」という理屈から、「被疑者・被告人を守る責任は国にはない」という理屈をひっぱり出そうとしている。少なくともその主要な責任は弁護士にあるという方向に持っていこうとしている。

0063118そうすると。

1-e1397901276348 あんな弁護では被告人に不利な結論になるのも仕方がないとか、悪いのは裁判所ではなく弁護人だなんていう見方がここから生まれる。
弁護人依頼権を変な言葉で飾るところに水路づくりの狙いがにじみ出ている。弁護を全うして貰えなかったと考える被疑者・被告人に弁護人を非難させ、国を非難させないようにする。「悪いのは裁判所じゃない。君の弁護人のせいだよ」ってね。

0063118刑事基本権を軽視・無視する国を批判しないで、弁護士自身が弁護士の責任の問題にしていると。

1-e1397901276348 そう、国の刑事弁護軽視はとうに進んでいる。法律実務家を養成する司法研修所の教育期間は以前は2年間だったが、だんだん減らされ今では1年間だ。刑事弁護の指導をばっさり削った。政府・最高裁は、司法修習生の給与をそれまでの給付制から貸与制に変え、借金と不安を抱える弁護士を増やした。若い弁護士の多くを刑事弁護の技術や精神を学ぶ余裕のない状態に追い込んだ。

0063118弁護人依頼権の土台を崩していますね。弁護士の研修を強調する人たちは研修所教育を元に戻せとは言わないんですか。

1-e1397901276348 言わないね。被疑者・被告人の権利を守るのは弁護人・弁護士だと言い募る。国のもくろみを批判しないで、悪いのは私たち、私たち自身が直しますっていう態度だ。無罪が減るのもえん罪が出るのも重い量刑になるのも弁護人の不勉強や怠慢のせい、裁判所にはなーんにも責任がないという論理がこれでできあがるのだ。

0063118うーん。

1-e1397901276348 わかりやすく結論を言おう。国が弁護士の責任にしたり、弁護士が進んで私たちの責任だと引き取ったりすることは正しくない。真実の発見と正しい責任判断の義務はほかでもない裁判所にある。弁護士の出来がよかろうと悪かろうと裁判所の責任は厳しく問われる。裁判所は弁護人のせいにしてはいけないし、弁護士は裁判所に逃げさせてはいけない。

0063118オクムラさんの話を続けますね。ここまでが総論、そして「刑事弁護をめぐる諸情勢の激変」「弁護士数は飛躍的に増え、刑事弁護の質低下も」「裁判員アンケでは弁護活動に厳しい意見も多い」として、あとは一路弁護士研修の強化論です。

1-e1397901276348 この15年は刑事司法は暗黒の15年だ。刑事諸法は厳罰化に突き進み、刑訴法を中心に刑事手続法は人権軽視の司法にどんどん衣替えをしている。今国会にかかっている刑訴法改悪案に至っては、盗聴の大拡大や証人取引や録音録画などとんでもない刑事司法に向かってばく進していると言ってさしつかえない。

0063118この方は「厳罰化」も時代の特徴としてあげていますが。

150504-03だったら、なぜそれを正面から批判しないのだ。「弁護士数は飛躍的に増えた」なんて言ったってそれを批判する訳でもない。「問題ある動き」に真っ正面から向き合わないで、「そういう時代だから弁護士は力を付けなければいけない」というおかしな回路の結論に走る。

0063118なんでもかんでも弁護士の責任に結論を持ってゆくと。地球の温暖化も弁護士の責任になるってことっす。

1-e1397901276348 オクムラ君は何重にも間違っている。被疑者・被告人の人権擁護という観点から見れば、司法改悪は途方もなく重い負荷を弁護人に課すものだった。刑事弁護のやりがいを感じさせなくする改悪だった。まさに「絶望の裁判所」さ。そのことを一言も言わないで、「弁護人がしっかりすること」を強調する。おかしいだろっていうことだ。

0063118この方は、研修を義務化せよと言います。「刑事弁護研修の義務化が必須だ」と。ここでもまた例の裁判員アンケの結果が登場します。アンケの結果に簡単に打ちのめされるのも情けないような気がしますが。

150504-03そのこともあるがさらに言えば、いったい何を研修させるのかがはっきりしていないということだ。現在の刑事司法のどこに問題があるのかを不明確にしたままの刑事弁護の指導とは何かっていうことだよ。

0063118この方は、そんなことには一言も触れません。全国で2万数千人の会員が国選登録をしているから、研修の義務化で資格を失う会員が出たって数に不足は来さないと断じています。ダメなヤツは切り捨てればよいということらしい。ご自身が属する金沢弁護士会はもうそれを始めているとも言っています。「義務化は可能である」という言葉をご丁寧に都合3回繰り返していますね。

150504-03インコはそれほどしつこくないが、一言だけ繰り返す。研修でいったい何を指導するというのか。たとえば、裁判長が極端に厳しい時間制限をする時にどう対応せよと言うかだ。君たちは短い時間でやれる尋問や弁論の工夫をせよと指導するのではないか。それこそが裁判所の求める「国選弁護人の正しい在り方」だ。裁判員からも批判はされないだろう。そんな国選弁護人を育てる研修ならやらん方がましだな。研修を受ける気のない会員や不当な弁護規制に抵抗する会員を国選弁護士から追放して、裁判所のご機嫌をうかがっていったいどうするのだ。

HP2016421……
……
……

006311009先輩、先輩。どうしました。これで「裁判員裁判の現状を掘り下げながら、適正な弁護活動をするために今何が必要かについても具体的に検討する」という『自由と正義』の特集は全部終わりです。

1-e1397901276348 うーむ。これは重篤だぞ。瀕死といった方がいいかもしれない。しばし声も出ないほどだ。日弁連裁判員制度推進派の病は重すぎるほど重い。これが「現状を掘り下げ」「今何が必要かを具体的に論じた」ものだというのなら、はっきり言って全国のまじめな会員からは鼻もひっかけられないだろう。

006311009さすがに裁判員制度は順調と言わない反面、もう断末魔とも言わず、そのような指摘があるとも、それが間違った指摘だとも言わないのですから、つまり「裁判員裁判の現状」について何も言わないのですから、うさんくさい特集ではあります。

1-e1397901276348 ま、意味があるとすれば、刑事裁判の変質を告発する責任を放棄して、そのお先棒担ぎをする日弁連制度推進派の生態が全会員の前にあからさまになったということだろう。ヒヨコ君はそこのところをよく見ておけよ。

006311009わかりました、先輩。勉強になります。

 

 

投稿:2016年4月22日

裁判員制度の現状を日弁連はどう捉えているか-その3

1-e1397901276348さてさて、皆々さまの大きなご期待に応えてその3に入りましょう。これは「法廷技術のさらなる向上のために」という論考です。レポーターは埼玉弁護士会の松山馨氏。20160418

0063118「さらなる向上」ってところがなかなかですね。引き上げなきゃっていう切迫感と、「だめじゃん」って言いきることへの躊躇感と…。

1-e1397901276348そう、でもこのままじゃまずいぞっていう緊張感が溢れ溢れて、駄々漏れ状態。

0063118どう向上させたいって言うんですか。

1-e1397901276348憲法37条によって被告人は「資格を持つ弁護人」を依頼する権利を保障されているっていうところから始まる。

0063118その辺はボクにもわかりますけど…。

1-e1397901276348「資格を持つ弁護人」っていうのは、「資格を持つだけじゃなく十分な能力を持ち効果的な援助を与えることができる」弁護人ということなんだと。反対側から言うと国家はそういう弁護人を被告人に提供する義務を負うことになる。

0063118憲法にもどこにも書かれてないですよね、そんなこと。

1-e1397901276348書かれていない。能力があるかないか見極めることなんか簡単にできないし、本当にそんなことになったら、目の前の弁護士がホンモノかフェイクかいちいち区別しなけりゃならなくなる。

0063118「十分な弁護能力あり」と「十分な弁護能力なし」の区別はどこでするんですか。

1-e1397901276348ふざけた話さ。その判断をするのは個々の弁護士ではなく国であり、被告人に義務を負うのは個々の弁護士ではなく国になるのだ。

006311009ヘンな話。

1-e1397901276348聞き取れないような声で弁護され自分の主張を裁判官や裁判員にちゃんと伝わらなかったとか、弁護人がジーパン姿をさらしたので不当に重い刑を言い渡されたなんて主張する被告人が国の責任を追及する。

0063118弁護人の責任はどうなるのですか。

1-e1397901276348法テラスのスタッフ弁護士や契約弁護士だったら国がその責任を追及する。弁護士の在り方を国が統制することになるな。

0063118この方、日弁連の刑事弁護センター法廷技術小委員会の責任者らしいですよ。

20160201だから問題なのだ。「弁護人は、憲法によって、十分な弁護能力を持ち効果的な援助を行うことを義務づけられている」なんて断言されると、何言ってるんだということになる。

0063118弁護人の能力向上と言えば、医師と同じで、いつの時代にも専門家として求められる常識のような話じゃないんですか。

150504-03違う。ここで言われている弁護人の能力向上はそういう一般論ではない。裁判員裁判が始まった。公判前整理活動も超短縮公判も昔はなかった。検察も制度採用に伴い体制強化に努めている。弁護能力の向上は喫緊の課題。そういう流れの中の話なのだ。

0063118高レベル弁護要求権とか高レベル弁護提供義務なんて大仰な話は、裁判員制度が登場する前には言われていなかった。

1-e1397901276348そうだ。

0063118裁判員制度で急浮上する憲法上の権利なんて、どうにもヘンですね。

1-e1397901276348制度が始まってからたびたび集められたアンケートで日弁連の尻に火が付いた。その2でも触れたが、裁判員裁判の中の弁護活動が手厳しく評価されている。点数がひどく低い。そのために日弁連の言うこともヒステリックになってきた。

0063118背景事情は理解しました。そこをマツヤマさんはどう突破しようと。

1-e1397901276348学習、学習、研修、研修……。その突破口を今回明らかにしようという訳だ。

0063118拝聴します。

1-e1397901276348裁判員制度を陪審制の第一歩と位置づけていた日弁連は、全米法廷技術研究所(National Institute for Trial Advocacy =NITA)から専門家(インストラクター)を日本に呼んだ。陪審制の先輩から指導を受けるということだった。NITAは法廷弁護技術の指導が売り物の組織。いかにも米国らしいプラグマティズムの産物さ。

006311009なんかゲームっぽい。べらぼうなお金をかけたとかいうO・J・シンプソンのドリームチームを思い出しました。

1-e1397901276348米国にはこういうインストラクターの指導を受けて陪審弁護を進める弁護士がたくさんいる。弁護のやり方について事細かに指導を受けて無罪を勝ち取ろうとしている。ちょっとした手の上げ方や、肩のすぼませ方なんかも教える。立ち居振る舞いの指導だな。

0063118そんなやり方をマツヤマさんは薦めるんですか。

1-e1397901276348の人は、「NITAの法廷技術指導法は日本でも有効に機能することを知った」「米国で活躍する法廷弁護士たちによる講評・実演の内容、立ち居振る舞いのすべてに、事実認定者を説得する力を確かに感じた」と言っているんだから、確かに感じたんだろうよ。

006311009いま、ボクも確かにそんな風に感じました。

1-e1397901276348よろしい。日弁連は、その後米国でNITAが開催した指導法研修講座(Teacher Training Propgram)に代表を派遣したり、インストラクターを日本に招聘したりした。マツヤマ君は「現在の日弁連における法廷技術に関する活動は、NITAからの学びが出発点だ」と言う。なんてったって「学び」と来るんだぜ。

006311009ボクも先輩に学んでますけど…。

1-e1397901276348れはよろしい。法廷技術に関して日弁連が提供する最も重要な研修は「実務型研修」だ。いろいろ実演させて指導する。横文字で言うと「キーコンセプトはLearning by Doing」。実演して批評・批判される研修方法が良いという。

0063118米国陪審パフォーマンスを日本の弁護士に叩き込もうという訳ですね。

1-e139790127634809年には全国10個所、10年には6個所、11年には8個所、13年、14年、15年にはそれぞれ2個所で研修をやったと。

006311009どんどん減ってるじゃないですか。会員のやる気以前に日弁連のやる気が年々落ちているように見える。それとも米国からインストラクターを呼ばなくてもいいくらいレベルが上がったっていうことでしょうか。

20160201うんにゃ、アンケートによれば、年々弁護人の話がわかりにくいという裁判員が増え、弁護人に対する酷評が続いている。「日本でも有効に機能することを知った」とか「力を確かに感じた」とか言葉が踊るが、いったいどこで役立っているんだか、NITA話は全体にひどく空回りしている感じがする。

0063118その研修では何をするのですか。

1-e1397901276348研修は2日間。起訴状や調書などの記録のほか課題や資料が事前に届く。50頁くらいのもの。これで例の「ケースセオリー」を事前に検討せよと言われる。課題は「有利不利な事実を拾い出す」「評価ではなく事実を拾う」「事実を導いた証拠をメモする」等々。受講者は不利な事実を導く証拠の証拠能力や信用性などを事前にチェックしておかなければいけない。

006311009それって、たいていの事件でふつうの弁護人がやってることじゃないですか。それとも何か特別の手法なんですか。

1-e1397901276348まぁ聞きなさい。「ケースセオリーの内容は、その当事者の求める結論を論理的かつ法的に導くものであり、かつ、全ての証拠を説明できるものであって、その説明に矛盾がないものであることが必要であーる」。

0063118ボクには、お・お・げ・さっていう感じがします、はい。

1-e1397901276348全体講義はブレーンストーミングから始まる。冒頭陳述。有利不利な事実を洗い出し、ストーリーを語る。登場人物の人格に触れ、何がなぜ起こったかを話に含める。必要な範囲で具体的にすれば感情移入もしやすくなる。最初の60秒間がいのちだ。そして短い単純なフレーズの積み重ねの勝負。わかったか。

0063118わかった。「つかみ」だ。

1-e1397901276348そう、君の短さもよい。受講生は8人単位。実演者は仲間の実演者の聴講生を兼ねる。指名を受けた実演者は立ち上がりジャケットの前ボタンを留める。立ち位置をここと決める。ゆっくりとそこに進む。5分の冒頭陳述の後、2人の講師から講評を受ける。改善点を指摘され、時に再現もされ、理由も解説される。

0063118つまりすべてについて「やり方」のチェックを受けると。

1-e1397901276348そう。すべてがビデオに撮られ、退室時にSDカードで渡される。教室を出るとそこに待っているもう1人の講師がカードの画像を見てコメントする。ボディーランゲージの効果的な使い方ができていないとか、ヘンな口癖を直せとか。主尋問、反対尋問、最終弁論のそれぞれについて、この講義・実演・講評がくり返される。

0063118パフォーマンス学習ってことだ。

1-e1397901276348そう言ってしまうと身も蓋もないが、相手に違和感を持たせず意識の中に溶け込むように工夫をこらせということだ。マツヤマ君は言う。反対尋問は単なる尋問ではない、プレゼンだ。「ですね」で止める繰り返し質問は避ける。時に言い切り、時にオープンに。声の大小・強弱もよく考えよう。

006311009ふーん。

1-e1397901276348マツヤマ君は、各地の弁護士会がこの講習の受講者を集め、日弁連に意欲的に申し込んでくれと呼びかけている。米国からインストラクターを呼ぶ代わりに日弁連が講師を提供するということらしい。

006311009どこか納得がいかないなぁ。ヘンです、先輩。

1-e1397901276348どこがヘンだと思うのか、言ってご覧。

0063118まず、陪審裁判と裁判員裁判を同視して弁護のパフォーマンスを論じているのが根本的におかしいと思います。

1-e1397901276348なるほど、もう少し言ってみてくれるか。

0063118裁判員裁判で、裁判員の理解や評価がどう判決に結びついているのかがわかっていないのに、「裁判員の心をつかむ」とか「感情移入しやすいように」とか言ったって意味がないんじゃないでしょうか。

1-e1397901276348むうむ。

0063118裁判員裁判は、陪審員12人だけで結論を出す陪審制と違って、裁判官3人と裁判員6人が結論を出すものです。法壇にはプロの裁判官がでんと座っている。評議室のど真ん中にもでんと座っている。陪審制とはまったく違います。

1-e1397901276348そのとおりだ。

0063118素人裁判官(陪審員)の心を捉える弁護パフォーマンスというものが米国で有効なのかどうかボクはよく知らないけれど、仮に有効だとしてもそれをそのまま基本的な裁判体の構造がまったく違う日本に持ち込むのは根本的におかしいと思う。少なくとも、裁判官と裁判員の心証の取り方の違いは何かとか、その違いを踏まえた裁判員への働きかけはどうあるべきかとか、そういう踏み込んだ視点が絶対に欠かせないでしょう。

20160418inkoなかなかのことを言うな。

0063118まだあります。日本の最高裁は、裁判員が加わっても伝統ある日本の裁判に根本的な変化は起きないと考えて裁判員制度推進に転換したと聞きます。実際、この国の刑事裁判は、裁判員制度の採用によって簡易・迅速・重罰になったと言えるだけで、被疑者被告人の人権の軽視は基本的に何も改善されていません。旧態依然というよりも、前よりずっと悪くなったと言うべきことが多くあります。米国陪審裁判では無罪率がかなり高いと聞きますが、日本では裁判員制度の採用で無罪率は逆に下がってもいます。そういう制度の現実について、この人はまったく触れていません。ゲームマニアの話を聞かされているだけのような気がします。

1-e1397901276348確かにマツヤマ君はそのあたりのことについて何一つ触れていない。パフォーマンスがうまくいくとどういうご利益があるのか。弁護人の声が大きくなって裁判員たちが聞きやすくなったり、弁護人の身振り手振りで裁判員たちの心を捉えることになると、被告人にとってどういうメリットがあるのかが何も説明されていない。一言で言えばだからなんなんだという話に終始している。

0063118それを言いたかったのです、ボクは。

1-e1397901276348裁判員裁判の中で被告人の弁護をやり抜こうとしたら(その2でも言ったように、インコは本当はそれはそもそもそけはムリなことだと思っているのだが)、裁判員6人の心をしっかり捉え、裁判官3人の意識も正しく捉え、その上で弁護活動を展開しなければならない。

0063118裁判員6人というのもいまや極少の人たち、はっきり言って一風変わった人たちですよね。そういう人たちと一緒に仕事をする裁判官たちの意識もこれまでの裁判官とは違ってきているでしょう。

1-e1397901276348結論がそろそろ出そうな感じがする。マツヤマ君の文章は、陪審制信奉者の集まりだったら喜ばれるかも知れないが、その話を裁判員制度の弁護活動の場に持ち込んでも何の役にも立たない。裁判員制度の現実と大きくかけ離れた机上の空論だ。

006311009このままだと、アンケートの結論はもっともっと弁護人に厳しいものになってゆくんでしょうね。

1-e1397901276348法務省や検察庁が米国式パフォーマンスを取り入れたなんていう話は聞かないが、裁判員の評価はおしなべて高い。澱の中の人たちが感情移入するのは、被告人を厳しく非難する検察官の論調に対してなのだ。パフォーマンス論のおかしさが誰にもわかるようになってきたと言ってよいだろう。

0063118マツヤマさんたちも裁判員たちの声を天の声と捉えたり、厳しい弁護評価にぴりぴりしたり慌てたりしないで、アンケートにこんな答えしか書かない裁判員たちこそヘンだって言い出せばいいんですよね。

1-e1397901276348そう、とんでもない制度がとんでもない人たちを生んだっていう話さ。それが正しい結論だ。

 

投稿:2016年4月18日

裁判員制度の現状を日弁連はどう捉えているか-その2

1-e1397901276348『自由と正義』その1の内容があんまりひどいんで続く論考を読む気も聞く気がしなくならはったって? あかん、あかん。やってみなはれ、読みなはれ。艱難辛苦ナンジの玉は傷だらけって言いますやろ。言わん? 言わんの馬鹿。

001178まね0…………

1-e1397901276348トザイトーザイ、一同松下きみまろ感にひたされながら、今日は「裁判員制度の現状を日弁連はどう捉えているか-その2」にゆるり進みまひょか。

0011780…………(かなりハイ。今度は『自由と正義』を結構読み込んだ風なんだけど、そのせいかしら。先行き心配…)

1-e1397901276348今回のタイトルは「我々の弁護活動は、裁判員の心をつかんでいるか? ~裁判員アンケートから見た弁護活動の評価と弁護士会の取組み~」。千葉県弁護士会の菅野亮氏と東京弁護士会の前田領氏。前回は西の大阪なら、今回は東日本勢。お二人とも経験7、8年くらいの会員のようだ。20160415maedasugeno1

00631100「裁判員アンケート」って、あの裁判員裁判を経験した裁判員や補充裁判員たちに経験の感想を聞いた調査結果ですか。

1-e1397901276348そうだ。どの地方裁判所も実施している。今回のテーマはそのアンケート結果から自分たちの弁護活動を見直そうということなんだな。

0063118謙虚じゃないですか。

1-e1397901276348さぁどうだろう。制度批判に謙虚なら評価してもいいが、こういう時の謙虚には食わせ物の疑いがある。

0063118食わせ物?

1-e1397901276348我々の弁護活動は裁判員制度に反対する人たちの心をつかんでいるか?」なんていうタイトルなら、もう少し素直に聞く気になるということさ。

0063118なるほど。

1-e1397901276348のっけから言ってしまうが、レポートの出だしで「ん?」と思ってしまったな。「弁護人は説得的で共感されるケースセオリーを確立してわかりやすく伝える必要がある、その手かがりをアンケートに求める」という話から始まっている。

0063118ケースセオリーってそれ何ですか。

1-e1397901276348ケースは事件、セオリーは理論。その事件の弁護人の筋立て方針ってところかな。ケースセオリーとはそもそも何かなんて嬉しそうに論じている連中が多い。推進派がやたらに好む鹿鳴館風の言葉だ。これについては「その3」で詳しくしゃべろうと思っているので、そこはお楽しみだ。

0063118で、そういうことを考えるのって、いけないんですか?

1-e1397901276348はっきり言っていけないね。

0063118それはまたどうして。

1-e1397901276348この国の裁判官のほとんどは現場を知らないし人の心もわかっていない。それなのに何となくわかっているような気持ちでいる。刑事弁護人の仕事というのはそういう裁判官たちに本当のところをわからせるためにどう闘うかというのがAでありZなんだ。そこにあるのは裁判官たちとの火花を散らす闘いだ。「説得的で共感されるケースセオリー」というこの引けた姿勢はそもそも何だってことよ。

00631100へらへらすり寄るな、意を決して決起せよってことですか。きびしい!

150504-03当たり前だ。えん罪の被告人を死刑台に送り込んでも、再審で無罪になって死刑台から生還しても、この国のほとんどの裁判官は他人事のようにのほほんとしている。「我が国の裁判は正統に行われてきた」なんて平気で言い張る。そういう連中が裁判員制度を考案した。

00631100そこに市民の裁判官が入ってきて新しい風を裁判所に流しているということは………。

1-e1397901276348ないね。裁判員たちは裁判官以上に暴走している。規則も基準もだから何なんだっていう連中が裁判所の中を我が物顔に歩いている。高裁で自分たちの判断がひっくり返されたら不満たらたらだ。キミも見てるだろ。

0063118いうことは。

1-e1397901276348「説得的で共感されるセオリーの確立」とか「わかりやすく伝える必要がある」なんて甘っちょろいこと言ってんじゃないよってことだ。こういう物の言い方では弁護人に求められる戦闘精神がどこにも感じられないってことさ。

 0063118そうか、そこに先輩は怒っているのか。

1-e1397901276348裁判員アンケートの結果はこうだ。「弁護人の法廷での説明等のわかりやすさ」は年とともに評価が落ち、2012年には「わかりにくい」が45.5%まで増えた(最高裁発表同年報告)。一方、検察官の説明の方はけっこうわかりやすいと評価されている。14年アンケでは「検察官の説明がわかりにくい」という回答は27.7%しかいなかった。

00631100弁護人は涙ボロボロですね。

1-e139790127634814年アンケでは、「話し方に問題あり」が28%、「説明が詳しすぎる」が7%、「わかりにくい」が21%、「質問の意図内容がわかりにくい」が30%とある。どうにもこうにもという数字だ。

00631100ホッ。全然だめじゃん。で、スゲノ君とマエダ君はこれについてどう言ってるんですか。

1-e1397901276348これは弁護活動以前の問題だ、ビデオクリティークなどを活用しようって言っている。

00631100なんですか、そのビデオクリティークって。

1-e1397901276348ビデオはキミの知ってるビデオ。クリティークは講評ってことだ。

00631100なんでそんな横文字を使うんですか。

1-e1397901276348「裁判員制度は陪審制の日本版だ、みんなで一日も早く陪審制を実現しよう」なんて言いまくった日弁連が「法廷指導の専門家」とか言われている人をアメリカから呼んできて講義させたもんだから、横文字がまかり通るようになったんだ。

0063118なるほど。で、そのなんたらティークを使うとうまくいくんですか。

20160201うまくゆく訳がない。裁判員がどうして話し方に問題があると思ったのかとか、説明がどうして詳しすぎると思ったのかとか、どこがわかりにくいと思ったのかとか、どういうところで質問の意図内容がわかりにくいと思ったのかとか、そういうことが何一つ明らかにされていない。そんな状況下でどんな横文字を使われたって、だから何なんだってことにしかならない。

0063118裁判員たちは弁護人の活動について具体的に意見を公表することは許されないんですか。

1-e1397901276348そのことを直接禁止する規定はないが、心証形成の過程や評議の秘密を暴露することにつながりかねないから、みんな口をつぐんでいる。

00631100そうか。黙っているのか。

1-e1397901276348だから、こんなアンケートの結論を通告されるだけでは弁護人としては対策の立てようがないし、現実抜きの講評を聞かされても何の役にも立たない。

0063118横文字を使う前にやるべきことがあるっていう訳ですね。

1-e1397901276348そのとおり。今日の君はいつにもまして物わかりがいいぞ。

0063118それほどでもありません。お話を進めてください。

1-e1397901276348インコがもっと言いたいのはその先のことだ。

0063118その先とは。

1-e1397901276348裁判員たちの意識状況を明確にしない調査には基本的な信頼性がないということだ。

0063118というと…。

1-e1397901276348自民党の国会議員を対象にした安保法案に関するアンケート結果を一般の世論調査の結果とは言わないだろう。今、裁判所に集まってくる裁判員就任希望者たちがどんな人たちかということを抜きにして論議しても一般市民の意識分析にはならない。

0063118議論の前提を欠いている。

1-e1397901276348当たり前だ。変な連中の共感を得るようにしようと敢えて言うのなら別だがね。

00631100この弁護士さんたちにはそういう問題意識はないんですか。

1-e1397901276348ない。考える気もなさそうだ。アンケの答えは天の声といった雰囲気だ。脳天気なもんだ。

0063118何を考えているのかわからない人に共感される筋道を考えるというのは確かに難しいですよね。

1-e1397901276348その難しさを突破する秘策を言ってみろっていうことだ。書いている本人がわからないことを他人にわかれというのは無責任の極みだろう。

00631100でもなんか整理してますよ。「弁護人の態度」「声の大きさ・言葉遣い」「資料の配り方」「尋問内容」等々。

1-e1397901276348何を言うか。声が小さいとか、居眠りをしているとか、ジーパンをはいていたとか、Yシャツのボタンが外れていたとか、資料の字が小さすぎるとか、誤字脱字が多いとか、弁論要旨の内容や書き方が連続して長いとか、いちいち紹介するまでもない与太話ばかりじゃないか。

00631100裁判員の関心の在り方がわかるということですね。

1-e1397901276348こんな話に振り回されて、「裁判員の心をつかんでいるか」なんてもっともらしい議論をする気が知れん。もっと大事なことがあるだろう、キミたちはそういうことには関心がないのか、ということだ。

0063118で、皆さんの結論は。

1-e1397901276348「終わりに」に書かれている文章を紹介しよう。これが全文だ。「弁護人の求める結論が結果として裁判官及び裁判員に受け入れられない場合はある。しかし、早口で何を言っているのかわからない、あるいは声が小さくて聞こえないということでは、主張が共感されるとかされない以前の問題である。長く書いた弁論要旨をそのまま提出し、後で読んでおいてもらえばよいという発想は通じない。また、弁護人は、裁判員に共感されるケース・セオリーを構築し、一貫した訴訟活動を行う必要がある。弁護人が裁判員の心をつかむために、法廷でのコミュニケーションの在り方及び共感されるケース・セオリーに基づく一貫した弁護活動の重要性を見直す必要がある」

0063118ふーん。こういうことしか言うことがないんですかね。

1-e1397901276348今日は、ほんと鋭いね。で、「終わりに」について少しだけ指摘してあげよう。第1、全国の弁護士に、裁判員の心をつかめなんて言う前に、君たち自身が裁判員アンケートを正面から評価・批判せよ。第2、こんなことではダメだと言う前にこうせよと指摘しろ。第3、自分でこの文章を読み返してみよ。いつもこんな風に同じことを繰り返すような弁論をしているのか。

0063118うーん。

1-e1397901276348第4、言葉の重要性に触れながら「ケースセオリー」と言ったり「ケース・セオリー」と言ったりするな。どっちでもいいことだけど、一つの論文の中で表現が変わると、弁護人の表現が統一されていないなんて裁判員たちから酷評されるのだよ。言葉は神経を使って用いるものだ。

00631100きびしいっ。

1-e1397901276348いやいや大甘な批評だ。裁判員裁判の弁護活動を本気でやるなんてことは本来あり得ないというのが私の考えだ。インチキ刑事裁判制度のもとに本気の刑事弁護は存在しない。もっともらしく言えば言うほど話はウソっぽくなる。それがインコの本当の感想なのだ。では、諸君、インコは次の準備があるので、これで失礼する。

001177ふぅ~。今日は出だしでけっこう心配したけれど、結論はきみまろ風とはずいぶん離れて、大演説になって安心したわ。

0063118確かに。でも、このずれ加減というかはずれ加減は先輩の真骨頂だから、まぁしようがないかなとボクは思います、はい。

 

 

投稿:2016年4月15日

自白偏重によるえん罪の危険がより強まった一部可視化。

 宇都宮地裁の裁判員裁判の無期懲役の判決に衝撃

弁護士 猪野亨

 下記は「弁護士 猪野亨のブログ」4月11 日の記事です。
猪野弁護士のご了解の下、転載しております。

宇都宮地裁は、当時小学1年生の女子生徒を殺害した罪に問われていた被告人に対し、2016年4月8日、無期懲役の判決を下しました。
無罪を訴えていた被告人の主張は通らず、有罪とされたものです。
この事件では物証らしい物証はほとんどなく、自白の信用性こそが争点でした。
その審理では、7時間に及ぶ自白を録画したものが再生されました。
取調べの一部を可視化したものですが、7時間に及ぶとはいえ、80時間に及ぶ録画を編集したもの、しかも特に自白に至った部分など記録されていない部分もあるというものです。
検察側が証拠として出して来たものですが、有罪立証のために証拠として請求されたものであり、その意味では検察にとっては、自白の任意性を裏付けるためのものです。
しかし、このような一部の可視化は明らかに問題です。
全ての取調べにおいて録画し、全てを開示するものでなければ全く意味がありません。編集された一部だけをみて任意性が立証できたとする方こそ無理があります。
捜査当局にとって不利なものを隠蔽するのは、今に始まったことであはりません。
全面証拠開示を拒否している現状は異様なのです。

   この事件ではそもそもの任意性も争われていました。
「弁護側は、被告が商標法違反で逮捕されてから自白調書が作成されるまでに123日間もの長期間、拘束された上、暴力や暴言のある厳しい取り調べが行われたと指摘。「早く自白したら刑が軽くなる」などの利益誘導もあったとして、自白に任意性はなく、証拠採用すべきではないと主張していた。」(毎日新聞2016年3月18日
捜査機関による利益誘導であったり、暴力行為についても問われいましたが、裁判所の判断は結局は「問題なし!」でした。それが一部の可視化された録画だけをみて問題なしとする判断は異常です。
「松原裁判長は理由を説明しなかったが、裁判員と裁判官らは、法廷で再生された取り調べを記録した録音・録画の様子などから、供述には任意性があり、被告が自分の意思で話したと判断したとみられる。」(前掲毎日新聞)

   これでは任意性がないことの立証責任を被告人側が負っているのも同じです。
一部だけを出して任意に問題なしとするのであれば、取調べのテリトリーは捜査機関側にあるにも関わらず、これでは捜査機関のやりたい放題ではないですか。
非常識極まる判断です。
そもそも任意性の立証のために検察官が証拠請求するのであれば、全過程を全て録画し、それを全て証拠として請求しない、ということであれば、むしろ請求を却下すべきものです。一部というだけで任意性の立証には足りないとしなければ、全く意味がないというべきです。
つまり、被告人が任意性を争う限り、全過程すべてを開示しなければ任意性の立証はできない、というべきなのです。

 信用性の判断も大いに問題です。判決によれば、その自白の信用性を認めたのも自白が迫真性に富むというだけのものです。客観的証拠といってもほとんどない中で、それと矛盾しない程度の「自白」をさせることなど、容易くできます。
「想像に基づくものとしては特異ともいえる内容が含まれている。実際に体験した者でなければ語ることのできない具体的で迫真性に富んだ内容だ」(朝日新聞2016年4月8日)というのですが、これは自白の信用性を肯定するための判決の中ではお決まりのフレーズです。
このような思考パターンでどれだけえん罪事件が量産されてきたのかという点が全く顧みられていません。

 その信用性の認定についてもこのような感じです。
「松原裁判長は、取り調べの録音・録画について「殺人のことを当初聞かれた時の激しく動揺した様子、気持ちの整理のため時間が欲しいと述べる態度は、事件に無関係の者としては不自然」と信用性を認めた。」(毎日新聞2016年4月8日

  人が動揺したときにどのような態度を取るかなど千差万別であり、後付けのような形で、この態度がおかしいなどと言われても、本当に根拠薄弱です。恐ろしい判断だと思います。
客観的証拠が重視されていないこともこのような感じです。
「被告の車が自宅と遺棄現場を行き来したとする自動車ナンバー自動読み取り装置(Nシステム)の記録、遺体に付いたネコの毛は被告の飼い猫と矛盾しないとのDNA鑑定結果など、検察側が主張した状況証拠についても検討。「被告が犯人の蓋然(がいぜん)性は相当高いが、犯人と直接結びつけるものではない」としながら、自白調書を重視し有罪を認定した。」(前掲毎日新聞)

猫の毛のDNA鑑定は全く意味がない、ということくらい正面から認めたらいいと思うのですが、結局、自白に依拠している構造に変わりありません。

 そして、一番、恐ろしいのは映像の効果です。
裁判員が感想を述べています。
判決から考える/上 録音・録画の立証効果 「自白偏重」の危険性 /栃木」(毎日新聞2016年4月10日)
「客観的な証拠は不十分で、難しい判断を迫られた裁判員は8日の判決後、「映像効果」に改めて言及した。
「録音・録画(映像)がなかったらこの判断はできなかった」「言葉で聞くのと、映像で見るのとでは印象が違った。見て良かった」」

 これでは映像によってあからさまに判断が影響を受けています。検察側が作為によって編集した自白ビデオで、本当に良いのかどうかという疑問は沸かないのでしょうか。

 さらに問題なのは、被告人に対して判決を受け止めよ、と求めている点です。
難しい判断 評議重ねた裁判員 「被告は気持ち受け止めて」」(産経新聞2016年4月9日)
「評議を尽くして出した判決。その気持ちを被告に受け止めてほしい」

 争われている事件なのですから、控訴されるに決まっているでしょうに、何故、裁判員になると判決を受け止めろなどということが言えるのか、そしてそのような発言が許容されてしまうのかということです。裁判官が言ったら大問題でしょう。

 極刑などの重罰、有罪という結論のときは裁判員制度を絶賛する産経新聞は社説(主張)でこのように述べます。
女児殺害に無期 裁判員の判断尊重したい」(産経新聞2016年4月9日)
「裁判員制度は、国民の司法参加により、その日常感覚や常識を判決に反映させることなどを目的に導入されたものだ。
疑わしきは被告人の利益とする無罪推定の原則は職業裁判官と同様に厳守すべきだが、一方でこの説明を受けた上でなお、公判や評議を通じて有罪と信じるに足ると判断すれば、社会正義の実現に寄与しなくてはならない。
公判は判決まで16回を数え、予定された判決日も延期された。それだけ裁判員らが事件と真摯(しんし)に向き合い、苦しみ抜いて結論を導き出したということだろう。新証拠の発見などの事情を除き、裁判員の判断は尊重すべきである。」

 量刑ではなく、有罪・無罪を裁判員の判断だから尊重せよ、と言われてもそれが無罪であれば格別、有罪を尊重せよというのは刑事裁判の自殺行為です。
参照
事実誤認を理由とする検察官控訴の禁止に関する意見書」(日弁連)

 この事件は、そもそもが殺人事件ではなく、全く関連性のない別事件の逮捕・勾留から始まりました。可視化といっても別事件での取調べは全くブラックボックスです。
これで本当に自白だけに依拠して良いのかどうかが問われています。
自白がなければ有罪にできないような事件で、これは致命的な欠陥です。
別件逮捕によって虚偽自白を得てきた過去のえん罪の歴史の繰り返しです。

 これについて各種社説は一部の可視化の問題点や自白依存について載せています。
栃木女児殺害 「自白」に頼らぬ捜査を」(中日新聞2016年4月9日)
女児殺害判決 全面可視化を急ぎたい」(北海道新聞2016年4月10日)
[栃木女児殺害] 取り調べ全面可視化を」(南日本新聞2016年4月10日)
栃木女児殺害判決/取り調べは全て記録を 」(山陰中央新報2016年4月10日)
ただ、それでも今回の事件の内容にまでは踏み込めていません。

 東京新聞は菅谷さんの警鐘を掲載しています。
「自白重視が冤罪生む」 「足利事件」で無罪の菅家さん警鐘」(東京新聞2016年4月9日)

 今回の事件は教訓というレベルではなく、日本の刑事裁判の劣化の一場面とされるべきであり、一から審理をやり直すべきものです。

オウム元信者に対する逆転無罪判決 裁判員や被害者の声に違和感

20160412baberu

投稿:2016年4月12日

裁判員制度の現状を日弁連はどう捉えているか-その1

001177インコさん、日弁連の機関誌『自由と正義』(2016年1月号)をご覧になった?

admin-ajax[1]いやいやエイプリルフールに振り回されていて、ちょっとまだ…。

001178まね0(誰が振り回されているのかしら。)えーとですね。「新時代の刑事弁護」をテーマに刑事弁護の連載が開始されるんですって。

1-e1397901276348「新時代」っていうのは今国会で議論されている刑訴法改悪時代のことでしょ。「盗聴拡大」「証人取引」「匿名証言」時代の刑事弁護をどうするっていう絶望的な話かな。

001177よくわかりません、なんでも1月号はその第1弾として、「裁判員裁判の現状と課題」という特集を組んでます。

1-e1397901276348な、なんと、それを先に言ってくれなきゃ。物事にはすべて順序とか順番とかいうものがある。

001177はいはい、「裁判員裁判の現状を掘り下げながら、適正な弁護活動をするために今何が必要かについても具体的に検討する」「実践的に学ぶことができる」ですって。

1-e1397901276348ふーん。制度の現状と課題をどのように解明してくれているのかいな。

001177特集は4本の論文です。第1は「裁判員裁判の現状と課題-第一審手続について」、大阪弁護士会会員の西村健氏。

1-e1397901276348ふむ。

001177第2は「我々の弁護活動は、裁判員の心をつかんでいるか?~裁判員アンケートから見た弁護活動の評価と弁護士会の取り組み~」、これは千葉県弁護士会会員の菅野亮氏と東京弁護士会会員の前田領氏。

1-e1397901276348ふむ、ふむ。

001177第3は「法廷技術のさらなる向上のために」、埼玉弁護士会会員の松山馨氏。

1-e1397901276348ふむ、ふむ、ふむ。

001177そして第4は「弁護士会の研修の在り方について」、これは金沢弁護士会の奥村回氏。

1-e1397901276348ふむ、ふむ、ふむ、ふむ。

001178まね0まじめに聞いていますか、インコさんっ。

1-e1397901276348聞いているとも聞いているとも。身を清めてじっくり拝見・拝聴させていただこうじゃないか。先頭を切って、まずは第1の西村氏(写真)の論考を遡上に載せよう。トップ論文・代表論文だぞ。

001177「裁判員裁判の現状と課題-第一審手続について」では、次のようなことを指摘しています。

           公判前整理手続きについて。手続きが無用に長期化しないように弁護人の研鑽が必要だ。証拠は全面的には開示されないので弁護人の意欲工夫が重要だ。検察が主張しないうちに弁護人の主張をさせる例があるのでその点は慎重に対応しよう。審理計画が確定しない段階で安易に公判期日を仮予約させられないよう裁判所には慎重に対応しよう。

            公判手続について。この制度で裁判所が自ら公判廷で証拠や証人を直接調べ、当事者の言葉に基づいて裁判するやり方が基本になり、開廷も連日的になった。証拠書類も要旨の告知ではなく全文朗読が基本になっている。被告人調書の調べの前に被告人質問に入るのは弁護人にとって常に好ましいとは限らない。証人尋問を重視する最近の裁判所の姿勢にどう対応するかは今後の課題。自白の任意性の審理をどうするかについても検討が必要だ。

          情状弁護について。アスペルガー症候群の障害を持つ被告人に懲役20年を言い渡した一審判決を考えると、具体的事件の犯情に基づいて刑の大枠を決め、一般的な情状は調整要素と考えるべきだ。弁護人が自ら具体的な量刑意見を言うことについても今後の試行錯誤が必要。量刑検索システムを活用して傾向を把握することは必須だ。

          裁判員裁判特有の実務。検察官が作成・提出する統合捜査報告書について、漏れの有無とか合意書面として認めてよいかなど注意が必要。遺体写真など刺激の強い証拠について、関連性や必要性について適切な意見を述べるようにしたい。

20160201おいおい、これが「現状と課題」の筆頭論文かよ。情けなくはないか。公判前整理手続きについて言おうか。手続きが長くなる事件は必ずある。有罪事件でもあり得るし、無罪を争う事件ならなおのことある。何でもかんでも短縮を短縮をとしつこく迫る裁判所とどう闘うのかということこそ最大・最重要のテーマじゃないのか。

001178まね0それが弁護人の問題にすり替えられている感じですね。「手続きが無用に長期化しないように弁護人が研鑽すること」が一番大切な話とはびっくりぽんです。

1-e1397901276348そのとおりだ。証拠が全面的には開示されないことについてどう闘えとこの人は言うのか。「弁護人の意欲や工夫」って言ったって、それだけじゃ何の説明にもならないだろう。

001178まね0そうですよね。読者はそこを知りたいんでしょうに。

20160201検察が主張しないうちに弁護人の主張をさせることがあるだって? 何を言っている。冗談じゃないって叫んでちゃぶ台ひっくり返す話だろう。「慎重に対応」しろってつまりどうしろと言うのだ。

001178まね0審理計画が決まってもいない段階で安易に公判期日を仮予約するなっていう程度のことしか言えないんでしょうか。

20160201読む方が恥ずかしくなる。これが裁判員裁判の弁護士活動の指導レポートなんだっていうんだから、世も末だ。

001178まね0情状弁護。障害を持つ被告人に求刑越えの懲役20年を言い渡した一審判決が高裁でひっくり返った例のアスペルガー事件を引いていますね。でも、「具体的事件の犯情」といい「一般的な情状」といい、何を言っているんだかよくわかりません。

1-e1397901276348ほんと、持って回った言い方だ。「具体的事件の犯情に基づいて刑の大枠を決め、一般的な情状は調整要素と考える」なんていう高裁の論理に引きずられて(または、かこつけてごまかして)はならないのだ。

001178まね0どうして、この人は、裁判員裁判の「求刑越え」判断をきちんと俎上に載せて議論しないのでしょうか。だいたい一般の人まで知るようになった「求刑越え」の言葉も使わないとは!

1-e1397901276348高裁判決のもっともらしい言い回しに隠れている「裁判員の暴走傾向」や「裁判官の制動能力喪失傾向」こそ論ずべきテーマのはずだ。

001177本当にそうだと思います。

20160201進んで量刑を断定する自滅弁護への提言は「今後の試行錯誤」。あのね、「試行錯誤」って提言ではないぞ、絶対に。量刑検索システム活用は「必須」。なんだこりゃっていう話だぜ。

001177裁判員裁判特有の実務。捜査記録を1つにまとめてしまう「統合捜査報告書」という簡略立証方法がまかり通っています。

怒りそれで本当にいいのか、問題があるのではないか、どう対決するのかをちゃんと論じなければいけない。「合意書面として認めてよいか注意が必要」と言う前に、どのような考えから検察は「報告書から大事を外す」傾向があるのかのか、それとどう闘うにはどういう工夫が必要なのかを具体的に助言するのがあなたの責任ではないかっていうことだ。

001177「遺体写真など刺激の強い証拠」の問題に触れていますね。

怒りそう。だが、「関連性や必要性に関する意見」は裁判官裁判だったら要らないのか。どうして裁判員裁判でだけ議論するのか。裁判員の負担を軽くしようという最高裁の方針に問題はないのかということこそ、ここで議論しなければいけない話だろう。

001177そういうことはこの方はきっと関心がないんでしょうね。

1-e1397901276348「裁判員裁判の現状と課題」と大上段に振りかざしたんだろ。そう言っちまった以上、考えるべきことは裁判員制度の導入によって被告人の人権は本当に守られているのかとか、無罪率は高くなったかとか、えん罪は減ったかとか、そういう変化がないとすればこの制度はやめた方がいいのではないかとか、そんなことを言っている人たちの主張はどこが間違っているのかとか、そういうつまり基本的な問題を論じるときに「裁判員裁判の現状と課題」というタイトルを使うのだ。

001177しかしこの人はそんなことにはみじんも触れていません。制度はこうなっていて、多くはこのように対応していて、「この辺は少し気ぃつけときや」という程度の「どーでもいい話」しかしてはらへん。

怒りいったいどこで「裁判員裁判の現状を掘り下げ」ているのか。「適正な弁護活動をするために今必要なこと」は何だと言っているのか。インコのお山ではこういう御仁をどふざけ野郎と言う。

001177西村健というお方は、1984年に弁護士になって、2001年から日弁連司法改革調査室に入り、後に日弁連の裁判員制度実施本部事務局次長になった人だ。30年弁護士やっていてもこんなものなんですかね。はっきり言って、制度に潜む本当の問題点を解明できる人でもなければ、解明する気のある人でもない。

006311000つまり、ただの茶坊主ってことですかね。

15005011おぉー(最後に一言かますのね。この子は)  

 

 

 

投稿:2016年4月10日

緊急記者会見 虚勢 墜つ!

『毎日朝辛深読新聞』16年4月1日号外

異様な雰囲気の記者会見場
昨日午後6時、最高裁で緊急の記者会見が開かれた。戸倉三郎事務総長の説明は次のとおり。3月30日午前5時
yjimageころ、寺田逸郎最高裁長官が公邸内で倒れているところを家人に発見された。通報で警察がかけつけ、医師が呼ばれたが、死亡が確認された。推定死亡時刻は午前3時。午前7時前には最高裁事務総局職員などの関係者が公邸にかけつけた。裂けたシーツが遺体にまとわりついており、これで首をくくったものと推定されると医師から説明されたという。記者会見に医師は立ち会わなかった。
写真:蒼白の面相で記者会見に応じる戸倉事務総長(写真『朝日新聞』)

 事務総長は、沈痛な思いからか時々言葉につまり、虚空をにらんで口を閉ざす場面もあり、記者たちが理解に苦しむシーンも少なくなかった。最高裁裁判官の在職中死亡は時々あるが、自殺はかつてない話とあって(外国ではスターリン支配下のソ連にはあったという)、このニュースはまたたく間に海外に流れ、世界の関心は最高裁の対応に集中した。

 特別記者会見とあって、参加資格に厳しい制限が課されず、顔なじみの司法記者クラブ記者だけでなく、週刊誌・月刊誌の記者やトップ屋らしい顔ぶれに混じり、鳥越俊太郎、大谷昭宏、田原総一朗などのジャーナリストや、号外を読んで駆けつけた最高裁判事行きつけの寿司屋の主人までが参加する異様な雰囲気になった。

 国際記者席には、米国ニューヨークタイムズ、英国ハフィントンポスト、独フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングなどの新聞記者やABC、BBCなど各国テレビ局の一線記者のほか、ロシアや中国など各国の大使館員などが並んだ。会見場に用意された椅子は200席だったが、参加者は300人を大きく超え、会場の後方は前が見えない状況になった。

長官自殺の背景
自殺の理由は現段階ではわからない、遺書はなかったという戸倉事務総長の説明に質問が集中。現段階で考えられる動機は何かという問いが相次いだ。事務総長はしばらくおいて口を開き、「昨日、『裁判の格好がつくのなら誰にやらせてもいいのか、だって』と口走り、突然嗚咽(おえつ)した。自分は『長官、元気を出して下さい。勝てば何してもええんかと言われて泣くのは白鵬に任せておきましょう』と申し上げた。長官は『裁判も変化で決めることがあるが、変化のし過ぎはあかん。田中耕太郎長官も司法は激流の中に屹立する巌のごとくあれと言うてたんや』とうめきながら涙を流したと説明した。

 会場からは、「裁判の格好がつけば誰にやらせてもええんかとはどういうことか」とか、「変化で決まるというのは英語圏の言葉で言うとどうなるか」などという質問も出た。

 「『変化のし過ぎはあかん』は関西弁のようだが」との問いに、総長は「長官は京都生まれの大阪育ちですと」答え、yjima1ge外国人記者の「どうして相撲取りの話が出てくるのか」との質問に、長官は時津風部屋力士暴行死事件に関わって以来、相撲に興味を持ちとりわけ白鵬のファンだったと釈明した。

写真:在りし日の寺田逸郎氏

事務総長の弁明
 会場のスポーツ紙記者が「横綱らしくない取り口で勝って優秀した白鵬が土俵下のインタビューで申し訳ないと謝罪して泣いた」話を紹介した。一国の司法責任者の自殺という国際的事件が伊勢志摩サミットの直前に発生したというのにローカルな話題に集中する日本の記者連を横目に、外国人特派員たちの関心は「いったい何を詫びたのか」「裁判の格好がつけば誰にやらせてもよいのか、の意味を詳しく」「この事件がサミットに及ぼす影響は」「申し訳ないと自死するのは『恥の文化』か」などの質問に集中した。

 「裁判員制度の現状に対する国民への謝罪」以外に詫びの中身は考えにくいという事務総長の答弁で、会場が一瞬ざわめき緊張が走った。「裁判員制度はとりあえず順調」というのが竹崎博允前最高裁長官以来の一貫した当局発表だったが、真実は始まって間もない時期からこの制度はすでに破綻していyjimage7G04IBIOたというのである。

写真:竹崎博允前最高裁長官

 「裁判の格好がつけば誰にやらせてもよい」というのは、はーもふーも言わなくてよいからとにかくそこに6人の男女が坐っていてくれれば裁判員がいたことになるという意味らしい。それで本当によいと思っているのかと誰かに言われたのか、言われたような気がしたのか、とにかくそこで寺田長官の心が折れたらしいというのが事務総長の説明だった。総長の目は沈痛を通り越して、うつろと言える印象を場内に与えた。

死に至る経過・疾病
事務総長は経過について次のように説明した。
2年前に就任した寺田長官は、裁判官が注文を受けると町に説明に出て行く「裁判員制度の出前講義」の実施を全国の地裁に指令した。これを受け、各地裁はいっせいに取りかかったが、実際には出前講義を申し込んでくる団体がほとんどなく、計画は完全に暗礁に乗り上げた。長官は、優秀地裁と不良地裁を競わせる表彰方式も考えたが、全部ダメだったため長官室の地裁別成績表には一つのバラの花も付かなかった。

 長官が心療内科に通い始めたのが就任8ヶ月の一昨年12月だった。通院は完全に秘密裡に実施された(コードネームは「朝刊配達」)。裁判員出頭率が急落する中で、昨年夏、長官は「最後の賭け」(長官の言葉)として、私の顔写真と自筆のサインを入れた挨拶状を候補者名簿登載通知書に同封したいと刑事局長に提案した。yji11ma1ge

 刑事局長は、容貌が急変している長官の顔写真を掲示するのは逆効果だろうと難色を示し、長官がまだ元気だった1年前の写真を使用することを提言、結局そのアイデアの候補者名簿登載通知書が全国に発送された(右写真)。

 しかし、結果は悲惨であった。送られてきた調査票の多くに「長官はなぜを私を名簿に登載したのか」「あなたの写真を見て自分は裁判員をやる気がしなくなった」「長官はいらないインコに敗れた」というような記述が山のようにあった。すべての調査票に目を通すと宣言していた長官は意気消沈して倒れ、以来入退院を繰り返す生活に入った。
 裁判員制度をめぐって展望を予想させる報告や情報が何一つないまま年度末を迎えることになり、苛立つ日々が続いていたところに「波乱の春場所」が始まったという。

事務総長のむすび
事務総長の記者会見は2時間におよんだ。最後に記者の一人が、「明日の国会で報告が求められると思われます。総長は長官の最期についてどのように報告するおつもりですか」と尋ねた。事務総長が答えようとした時に、刑事局長が脇からそっとメモを渡した。事務総長はしばらくそのメモに目を落としたが、小さく首を振り目を前に向け直すと深呼吸をして言った。「長官は、昨日午前3時ころ公邸内にて死亡された。自殺と考えられる。長官はお亡くなりになったと、そのように答えます」。長い会見を終えて総長が深く記者席に礼をして退出した。
演壇のマイクの脇に残されたメモ用紙には次のように書かれていた。
「長官の現状はあまり順調ではない」
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=訃報=
  最高裁長官の寺田逸郎(てらだ・いつろう)さんが3月30日、公邸で死去した。68歳。通夜、葬儀は近親者のみで行う。後日、有志が「お別れの会」を開く予定。
京都市生まれ。東大法学部を卒業後、1972年に司法修習生。東京地裁判事補に任官後、札幌地裁や大阪地裁の裁判官を務めたほか、1985年には駐オランダ大使館一等書記官となり、その後は法務省勤務のいわゆる「赤レンガ組」となった。2010年2月に広島高等裁判所長官に就任、同年12月27日に最高裁判所判事。2014年4月、第18代最高裁判所長官に就任。
父寺田次郎も最高裁長官を務め、親子二代の長官は初。「福岡・海の中道事件」では裁判長を務め、危険運転致死罪の拡大解釈で評価を落とした。任期途中で撤退した竹崎博允氏の後任として、裁判員制度の「出前講座」を企画したが失敗、その挫折がインコの餌食となり、2015年11月には自身の顔写真入り候補者名簿登載通知を送付して評判になった。

 


投稿:2016年4月1日