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制度の墓穴を掘った出前講義-その近況報告

1-e1397901276348出前講義がまるきりうまくいっていない。

006311009何でしたっけ、出前講義って。

1-e1397901276348出前講義をもう忘れたか、キミは。

006311009なんだかんだといろいろ出てくるもんですから。

1-e1397901276348出前講義については-最高裁は出前講義「まいど!裁判所です」で何を訴える-をみてよ。去年4月、テラダ長官が登場して始まった出し物だ。

001177出前というのは料理などを注文した人の家などにそれを届けるサービスですね。食べたきゃお店に来いとは言わないよ、お宅にお持ちいたします、お宅にうかがい裁判員裁判のお話しを喜んでさせていただきます、っていうことでしたね。

1-e1397901276348そう、裁判員裁判にかかわっている裁判官が懇願、拝み倒し、泣き笑いの風情で一般の会社の会議室なんかに訪ねてくる。平生法壇でふんぞり返っている人たちにはストレスのたまる仕事さ。

001177裁判員になりたいと言う人はもともとあまりいませんでした。それがこの間さらに激減しています。今ごろになって制度を知りたいなんていう人もほとんどいません。この状況を何とか打開しようと最高裁が編み出したのが出前講義でした。全国の地方裁判所のホームページに「出前、始めました」なんて広告がいっせいに登場しました。

1-e1397901276348用があれば出てこいという役所が自分から出て行くと言えば、こりゃ少しは受けるんじゃないかといういかにも役人らしい発想だったが、それがやっぱり破産しているっていうことさ。

006311000うまく言っていないって、どういうことですか。

1-e1397901276348鳴り物入りのパフォーマンスが実際にはほとんど開かれていないのさ。いくら出し物といってもちんどんやさんのように町を練り歩くわけじゃない。お呼びがかかったところに出向いて行く仕組みだ。だから要請がなければ出かけていけない。そのお呼びがほとんどかからない。

006311009実際にはどんな風になってるんですか。

001177年の6月1日から今年4月30日までの11か月で全国で実施されたのは全部で127箇所だけ。東京7箇所、大阪12箇所、千葉4箇所、名古屋8箇所。長野、新潟、大分、那覇、仙台、盛岡、函館、旭川、釧路に至っては実にゼロ。

006311009東京でたった7箇所。

1-e1397901276348そう、たったそれだけ。大山鳴動出前7箇所。首都東京で月に1箇所も開かれなかったという計算さ。いやなものはどうやったところでいやなのだ。

001177「税金はお届けにならなくても結構です、いただきに上がります」って言われてもっていう感じですよね。

1-e1397901276348もう一つ大事なことがある。出前講義のポイントは「裁判員経験者の参加」だった。裁判員になった人たちのほとんどが「よい経験をした」と言っている。その言葉を出前講義の場で披露して貰えば、食わず嫌いの人たちもそんなにいいものならひとつやってみるかと言い出すのではないかという狙いがあった。

006311009最高裁は「感動派95%超」を本気で考えていたということになりますか。

1-e1397901276348本気でそう思っていたのか、追い込まれてそれしかないと考えたのかはわからん。

006311000で、裁判員経験者の参加は実際どうだったのですか。

1-e1397901276348それが見事に失敗した。裁判員経験者はほとんど参加しなかった。参加したのは全部でわずか27人。

006311009全部で27人? 一つの裁判員裁判の裁判員が正6人、補充2人程度ですから、27人と言えば3人か4人の被告人の裁判員がすべてだったということになりますね。

1-e1397901276348そうだ。裁判員裁判6年で裁判員を経験した人の数は5万8000人を超える。被告人の数で7600人を超えている。出前講義に参加したのはそのうちのたった27人、それも延べ勘定の可能性もある。

006311000延べ勘定って?

1-e1397901276348あっちの出前にもこっちの出前にも顔を出す妙な出たがり屋がいたんじゃないかっていうことさ。実人数かどうかわからんという話よ。

006311000「よい経験をした」と言っているという例の話はどうしちゃったんですか。

1-e1397901276348そうそう、いい勘してるな。ほとんどの裁判員経験者が「よい経験をした」と言っているという話そのものがインチキくさいということが、これではしなくも暴露しちゃったということだ。

006311000そうですよね。大半の経験者が本当によい経験をしたと思っているのなら、こういう機会にどんどん出てきて自分の思いを皆さんに紹介したらよいのにと思います。いくらなんでも27人では、最高裁も地裁も恰好がつかず窮地に陥っているのではないでしょうか。

001177前講義が明らかにしたのは、裁判員制度がこれほどまで市民に嫌われているということと、裁判員経験者が「よい経験をした」と言っているという例の話がとんでもない作り話じゃないかということを、あらためてみなさんに知らせたということです。

1-e1397901276348出前講義は、断末魔の裁判員制度の姿を全国の地裁の裁判官を通して国民に知らせる一大イベントになった。ま、裁判員裁判にかかわっている現場の裁判官には、そのことを肌で感じる貴重な機会にはなっただろう。そぞろ店じまいの時が来たなと感じただろうね。

006311000だから、最高裁はこのことを公表していないんですね。

1-e1397901276348うまくいってたら、憲法記念日に行う最高裁長官の記者会見でも大々的に発表しただろうさ。

001177今日の説明が根拠のない説明ではない証拠に、最高裁事務総局がまとめた「出前講義の実施状況」を最後に掲げて、私たちはさぁ飲みにいきましょうか。

006311000それはよいことです。制度の不幸は私の幸せっていう言葉もあります。

1505012それは初耳ですが、ま、いいでしょう。浴衣を着てどこかのホテルのバーなんかに行っちゃってもね。出前をとろうなんて言いませんよ私たちは。

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投稿:2015年6月27日

堤に蟻の穴どころか大穴あけちまって

001177裁判員法の改正案が賛成多数で可決され成立しました。6月5日の参議院です。

006311009「審理期間が著しく長期に及んだり、公判期日が非常に多くなったりする場合は、職業裁判官だけで審理してよいことにする」とか。

1-e1397901276348そう。これに対して共産党は待ったをかけ、重大否認事件こそ市民裁判員の社会常識や間隔を反映させて国民が司法に参加する意義があるとして政府案に反対、「被告人が希望したら現在裁判員裁判の対象になっていない事件でも裁判員裁判として取り扱えるようにせよ」「裁判員の心理的負担の軽減をはかり守秘義務を緩和せよ」などという内容の修正案を提出した。

001177修正案は否決され、共産党は改正案に反対。

1-e1397901276348共産党の「長期裁判除外反対」は、日弁連執行部など制度推進派弁護士や多くのマスコミと同じ論調だ。裁判員裁判を支えているのはどういう人たちかという現実を見ない妄想思考がまだあちこちに残っているようだ。

006311009ヘンリー・フォンダがどこからか出てくるんじゃないかってですか。

001181長期裁判の除外に本気で反対してるんですかね。

1-e1397901276348法務省や最高裁にすれば、みんなが裁判所に来てくれなくて困り切ってる、制度の生き残りをかけた苦渋の選択なんだ、あんたたちも制度に賛成なんだからそのあたりわかってくれよっていう思いだろう。

006311009「贔屓(ひいき)の引き倒し」というか、「ありがた迷惑」ってことですかね。

1-e1397901276348そうそう、よく言葉を知っているじゃないか。

001177袴田事件など否認えん罪事件を取り上げて、「このような重大否認事件ほど、市民感覚や社会常識を裁判に取り入れるべきだ」なんて言ってましたね。

1-e1397901276348そういうことを言うんだったら、裁判員裁判ならえん罪にはならない理由をきちんと言えよ。最高裁も驚くほど重罰を求める裁判員が地裁法廷に溢れている。超長期裁判にどういう人間が集まっているか少しでも考えればこんな方針が出てくるはずがないのだ。

001177そうね。市民感覚だの社会常識だのというのは、今や重罰化推進とほとんど同義語になっていますね。

1-e1397901276348逮捕された以上犯人だと思う市民が実に多い。刑事責任能力がなければ処罰されないなんて聞いただけで顔色を変える人たちがたくさんいる。「否認するのは無反省の証拠」とか、「無実だというのなら黙秘しないでしゃべれ」などなどの裁判員の言葉をこういう人たちは聞いていないのだろうか。

006311009そこまで長期裁判をやらせたいのは利権でもあるんですか?

1-e1397901276348「裁判員裁判にかかわってはじめて刑事裁判が儲かることがわかった」なんてうれしそうに言う弁護士もいる。だが、それが長期裁判へのこだわりの原動力ではないだろう。

1505013というと。

1-e1397901276348ぶっちゃけ言えば、市民参加を推奨する政府や最高裁をこの人たちは腹の底からご信頼申し上げている。少なくともこの分野に関しては深い対立も激しい対決もない。そういう「左翼政党」や「人権団体」を一般の国民や弁護士が許しているところに根本的な問題があるのだろうね。

006311009この期に及んでもですか?

1-e1397901276348この期に及んでもだ。だから、「否認事件で被告人が希望した場合には対象外事件でも裁判員裁判として取り扱うこと」なんてトンチキ修正案が出せるのさ。

006311009裁判員裁判をもっと広げろと。

1-e1397901276348裁判員裁判を受けたい被告人がどれくらいいると思っているのか。裁判員裁判の方が裁判官だけの裁判より無罪率が高いとでも思っているのか。一部の覚せい剤事件を除けば、そんなことは決してないことがはっきりしているのに。

001177この数字については「裁判員裁判はえん罪を確実に増やすを見て下さいね。

1-e1397901276348ヘンな修正論もさることながら、今回の修正案で絶対に見落としてはならないのは、圧倒的多数の国民が裁判員になりたくないと言っている時に、超長期の裁判を裁判員から外すという対策を出したことの例えようもない重大性だ。

006311009それは対策にもならないと。

1-e1397901276348対策になる訳がない。こういう政策は「短期裁判ならやってもいいが超長期はやめてくれ」と国民が言っている時や言いそうな時にうち出すものさ。しかし、国民はすべてイヤだと言っているのだ。

006311009確かにそうです。

1-e1397901276348そういう時に超長期を外すとどういうことになるか。国は国民が裁判員になるのを嫌がっていることを正面から認めてこういう「対策」を公表した。「長い裁判には来なくていい、そのかわり短いのは来いよ」と言ったのだ。でもそんなにうまく問屋か卸すと思うか。

006311009思いません。

1-e1397901276348だろう。つまり「嫌がる国民の思い」に市民権を与え、みんな堂々と嫌がってよいことにしてしまっただけなのだ。制度実施6年にして不出頭不処罰方針に切り替えたも同然なのだよ。

001177ということは、これで短期の裁判員裁判の出頭率もやっぱり下がってしまうでしょうね。

1-e1397901276348もちろんそうさ。国民の感覚はますます法務省や最高裁と離れてゆく。

001177制度は決定的な破綻に向います。

1-e1397901276348そうだ。制度は決定的な破綻に向かうのだ。今回の改正が国民に示した本当のメッセージは「裁判員裁判はもうどうしようもないところに来ました。みなさんもうそろそろお別れです」という告白なのだ。

006311009うはっ。

1-e1397901276348そもそも超長期裁判は裁判官に任せると言うけれども「超長期」とはどのくらいの長さの裁判を言うのか、改正法はそんなことさえ一言も説明していない。

006311009一言も?

001181実際にはどういう基準で判断するのでしょう。

1-e1397901276348法案が検討されていた法制審議会では「年を超える」のは裁判官だけでやることにしようなんて言っていた。1年以上かかる裁判は裁判員にはやらせないことにするというのが大方の見方だった。

001177でも、1年を超えるどころか半年を超える事件もこれまで1件もありませんでした。

1-e1397901276348そう。だから、裁判員裁判は基本的に長期になっても裁判員にやらせる方針に変わりはないと思われていた。

001177しかし、今度の修正案の国会審議の中では、1年超どころか審理期間132日の尼崎連続不審死事件の審理日数を超えるくらいの事件を超長期事件と考えるというような話に変わってきましたね。「超長期」の判断の基準が、以前の想定の3分の1くらいに短くなってしまいました。

1-e1397901276348そうだ。その結果、重大事件の裁判官裁判化というのが絵空事ではなく、一気に現実の問題になった。裁判員になりたくないという国民感情の高まりを法務省も最高裁も到底無視できなくなった。そのことがこの間の論調の変化からリアルに伝わってくる。

006311009要するにみんなやりたくない、そして法務省も最高裁もそのことをよく知っている。

150504-03圧倒的多数の人々がやりたくないと言っている時の正解は制度の廃止以外にない。訳のわからないことをごちゃごちゃ言ってごまかすのはやめたまえキミたち、見苦しいぞと言っておこう。

 

投稿:2015年6月15日

インコ事務局酒脳会談-秘蔵写真集

0011776月某日、都内某所において、インコ事務局員の8人が集まり、謀議…もとい事務局会議を開催しました。会議の写真はつまらないので、その後の懇親会で最後まで残ったインコさんと後輩の酒脳会談の写真をお送りしたいと思います。

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投稿:2015年6月11日

『朝日』『毎日』『読売』・裁判員裁判6年の総合的研究

001177産経ニュースに続いて、『朝日』『毎日』『読売』の6周年記事を考えます。これらの全国紙も「市民感覚」への急ブレーキにうらみ節を繰り広げたり、制度の行き詰まりを悲嘆したり、そうかと思うとそれほどでもないような記事にしてみたり、何となくやっぱりたそがれ酒場の空気が漂うんですね。

006311009あの~全部紹介すると膨大な量に…。

150504-03全部を紹介する価値もない。インコの独断でそれぞれ一部を引用し、やさしくコメントしてあげる。

1505013やさしく、ねぇ。

『朝日』を研究する

1-e1397901276348まず、5月21日の『朝日』。トップの横見出しは「市民の量刑判断 続く否定」。内容は重い量刑判断を否定する最高裁判決などの裁判と凄惨証拠不使用問題。

1-e1397901276348前者について『朝日』は、「高裁・最高裁、『公平性』を強調」という立て見出しを打ち、裁判員裁判の死刑判決を高裁に続いて最高裁も否定した事件と、求刑の1.5倍の判決を言い渡して高裁でも支持されていた事件を高裁・地裁串刺しに否定した最高裁判決を紹介。

001177遺族の不満の言葉を引用しながら「他の裁判との公平性」を強調する最高裁の姿勢を描き出しましたね。

1-e1397901276348この動向をメディアとしてどう評価するのか。その点こそ読者の関心事ではないかと思うのだが『朝日』は何も言わない。かえってそこに『朝日』の危機感がにじみ出ているようにインコは思う。

001177ま、その話はこの程度にさせてもらって、引用紹介は後者の凄惨証拠不使用の部分にしましょう。

心の負担 軽減課題A1506043
 今年3月、宮崎地裁で判決があった殺人事件の裁判員裁判。裁判員の心理的負担を減らすため、公判では遺体の写真がイラストで代用された。判決後の会見で、裁判員と補充裁判員9人のうち3人が、こう話した。「もう少し具体的に見せてもらってもよかった」 東京地裁で昨年10月にあった傷害致死事件の裁判では、検察側が遺体のイラストを証拠として請求したが、地裁は「写実的で裁判員の負担が大きい」としてイラストも認めなかった。
 こうした流れは、福島地裁郡山支部で強盗殺人事件の裁判員を務めた女性がストレス障害になったと国を提訴したのがきっかけだ。昨年9月の判決は、裁判員を務めたことでストレス障害になったと認めた。

1-e1397901276348イラストはあくまでイラスト、描いた人の手による作り物。凄惨な印象を弱める目的で描くのだから写実的なものではない。間違っても写実的じゃいけない。

001181しかし、印象の薄い刺激の少ない物で心証をとれということになれば、それでも裁判と言えるかという疑問が湧きます。

1-e1397901276348イラストも要らないとなれば、これまで証拠に写真を使っていたのは何のためだったのかとか、現に行われている裁判官の裁判で写真が使われているのは何のためかということになる。

001177裁判員裁判の証拠はイラストでよいとかイラストも要らないというような話は、制度設計時にはまったくなかった話です。

150504-03「裁判員になるのを厭(いと)う心情」を押し切った強制動員政策は、真実への肉薄を後に回して国民参加優先の結論に行き着いた。制度が崩壊しかねないという情勢判断は、裁判員裁判を「裁判」から「裁判もどきの儀式」に変えた。

001177「もう少し具体的に見せてもらってもよかった」という裁判員たちの感想は意味深長ですね。

1-e1397901276348見ればいたく心が傷つき、強く後悔したかも知れない。でも見ないで裁判するのは違うような気がする。「もう少し具体的に」という表現の中に、揺れる裁判員の思いを感じる。現在の裁判員裁判に残った強者(つわもの)の裁判員たちからもこんな感想が出るのだ。

 検察幹部は「イラストもなければ事件の悲惨さが伝わらない」と懸念する。ジャーナリストの江川紹子さんも「刑事裁判は真相に近づき刑事責任を判断するためにある。裁判員への配慮を優先するのは発想が逆だ」と指摘する。一方、あるベテラン刑事裁判官は「写真を見せなくても状況を説明することで残虐さを裁判員に伝えられる。裁判員の負担に配慮しつつ、きちんと事実認定をする工夫が裁判官に求められる」と言う。

001177検察の懸念もジャーナリストの指摘もある意味まともですね。裁判は裁判もどきになってはいけないという至極当然のことを言っている。

1-e1397901276348こんなことをわざわざ言わなければならないことの方がおかしい。裁判員裁判が行われるのはたいてい人の命に関わり、ほとんど悲惨な事件だ。凄惨な証拠を見ないで凄惨な事件を判断させるというムチャクチャな話がこの国の司法の場で現に進んでいる。

006311009「ベテラン刑事裁判官」は、状況の説明の仕方次第で残虐さは裁判員に伝えられると言う。

1-e1397901276348ベテラン裁判官とは誰か。よく言うよと笑う現場の裁判官の姿を想像する。残虐だとかそれほど残虐ではないとかいう判断は裁判員自身が証拠から感じとるもので、人が裁判員に伝えるものではない。それともこのベテラン氏は、裁判員裁判の証拠はすべて裁判官が裁判員に「状況の説明」をして伝えるものと思っているのか。

001177裁判官の胸先三寸、市民感覚じゃなくて裁判官の感覚が結論を決めるって話ね。

『毎日』を研究する

1-e1397901276348『毎日』に移ろう。5月22日の『毎日』。トップ横見出しはどでかく「『市民感覚』制限も」。中見出しは「『感情を刺激』証拠採用慎重」と「先例重視促す最高裁」。

001177内容は朝日と同じで順序が逆という感じ。ただし、記事量は『毎日』が5割も多いですね。

1-e1397901276348今度は「先例重視」にスポットを当てる。

先例重視促す最高裁 「公平が量刑の原則」m1506041
最高裁は昨年7月、1歳児虐待死事件で、両親に検察の求刑の1.5倍にあたる懲役15年を言い渡した裁判員裁判の判決を「他の裁判との公平性」を理由に減刑した。今年2月には裁判員裁判の死刑を無期懲役に減刑した2件の強盗殺人事件の2審判決を支持し、検察の上告を棄却した。市民の判断を尊重しつつ、先例を重視するよう地裁に促したといえる。
背景には最高裁司法研修所が2012年にまとめた「裁判員裁判の量刑の在り方」の報告書がある。公正・公平性を重視する立場から「死刑は先例と比較して初めて重大さの評価が可能になる」「先例と異なる量刑判断には合理的な理由が必要」とされており、元日本弁護士連合会裁判員本部事務局次長の宮村啓太弁護士は「制度開始前から裁判官が
考えてきたことが明確に打ち出された」とみる。

1-e1397901276348検察は裁判の常識に従って懲役10年を求刑した。裁判員たちはそんな求刑は軽すぎると検察の主張を蹴っ飛ばして15年の懲役を言い渡した。この事件は高裁の「ベテラン刑事裁判官」も1審の裁判員裁判に同調して、それでよいと言っていた。最高裁はこの地裁と高裁の判断を並べてぶった切った。その拠り所は、裁判員裁判が始まった年に最高裁司法研修所が裁判官たちを集めて研究させた報告書「裁判員裁判の量刑の在り方」、タイトルを正確に言えば「裁判員裁判における量刑評議の在り方について」だ。

001177報告書が発表されたのは3年後の12年10月。

006311009量刑評議の在り方の報告書?

1-e1397901276348もうすこし説明しよう。裁判員裁判が発足したのが2009年。制度を導入した最高裁は、もともと人民裁判や袋だたき裁判を推進しようとも、それだけはやめさせようとも、そういうことは考えていなかった。少なくともそれより気にしていたのは、この国の司法に対する「黒い霧」批判というか、日本の刑事司法はえん罪の汚らしい歴史を引きずっているというたぐいの批判だった。

001177実際、日弁連やマスコミなどは、えん罪をなくすために市民の声を裁判所に響かせようとか、裁判員制度をきっかけに陪審制に進もうとか、現状を批判する声を強めていましたね。

1-e1397901276348最高裁は気をつけんといかんぞと世間の空気を読んだ。この際、この国の刑事裁判の思想を少しも変えずに市民参加を実現し、プロの裁判官たちの仕事ぶりを国民に実践的に見学させて、被告人に対する処罰の仕方つまり量刑判断の基準を教えたい。そして、そのことにより、えん罪批判より大切なのは犯罪のない社会作りに協力することだと国民に学習させたい。そのために、現場の裁判官向けに量刑について裁判員たちにこのように語れと教える指導書を作ることにした。それがこの報告書なのだ。

001177ですから、この報告書には、国民の声をどう刑事裁判に反映させるかなどという視点はまったくありません。基本は言うまでもなく「先例重視」。元日弁連なんたら本部の弁護士が言ってる「制度開始前から裁判官が考えてきたことが明確に打ち出された」と言うのは間違っていません。

1-e1397901276348でも、現場の裁判員裁判は最高裁の懸念とはかなり違う方向に進んだ。裁判員になることをほとんどの国民が嫌がり、やってもよいとかやりたいという市民の多くは重罰を求めた。

001177「歴史も伝統も私たちにはあまり関係がない。とんでもない犯罪を犯した被告人には重罰を科すべきだ」という声がどんどん強まったのです。

1-e1397901276348超不人気の結果、際立つことになった重罰思考は最高裁の予想や思惑を超えた現実だった。「先例重視」か「重罰志向」か。報告書は重罰を求める人々との間できしむことになってしまったのだ

006311009なるほど。

 従来の刑事裁判は、結果の重大性に加え、犯罪行為の危険性や計画性を検討し、被害者の処罰感情や被告の謝罪は、あくまで量刑要素の一つにすぎないとみなしてきた。先例重視の傾向は、犯罪行為と関わりの薄い証拠を絞り込む姿勢にもつながっている。
 あるベテラン裁判官は、パニック状態で何度も突き刺した事件と、1発の銃弾で計画的に殺害した事件を比較し、「遺体の状況は前者がひどいが、刑は後者が重くなる可能性がある。遺体や現場の写真が裁判員に誤った影響を与える可能性がある」と指摘。「裁判官と裁判員に共通認識があれば急な変化は起こらないはず」と解説する。
 検察の求刑を超えた裁判員裁判の判決は、11〜13年は10〜19件。これが14年は2件にとどまった。先例への理解が広がった結果ともいえる。

へ?あんまりよくわかっていない説明に思える。「先例重視の傾向は、犯罪行為と関わりの薄い証拠を絞り込む姿勢にもつながっている」って言うが、重罰志向の市民は「被害者の処罰感情や被告の謝罪」こそ犯罪の悪質さや被告人の責任の重さを量る決定的な指標だと言い、それらを「犯罪行為と関わりの薄い証拠」と見ること自体に反発する。

001181量刑の判断にあたり何を重視するかという見方・考え方の基本が違うということね。

1-e1397901276348またまた「ベテラン裁判官」の無責任発言だ。だがそれは「裁判官と裁判員に共通認識があれば急な変化は起こらない」などという生やさしい話じゃない。裁判官たちが今相手にしているのは、並の人たちではない。「人民裁判や袋だたき裁判のどこが悪いのだ」くらいのことは言い出しかねない人たちなのだ。裁判官たちは、それを言いたくて裁判所に出かけてきたというような「奇特な人たち」と一緒に裁判をしなければならなくなっている。

001181実際、この間プロの裁判官たちはその声に押されて彼らと一緒に重罰志向に走り、求刑超えもやっちゃえってことになりましたから。

1-e1397901276348どうしようもない不評にびびった最高裁自身が「国民の声を可能な限り尊重せよ」なんていう判決を出したこともあり、

001177(「あてどもなく荒野をさまよう最高裁」を見てね)

1-e1397901276348それこそ御大・総本山自身が揺らぎまくったけれど、高裁などからもそれは違うだろうなどとクレームがつき、最高裁も迷走しながら軌道修正を図ってきた。その方向を決定的に示し「裁判員に引きずられるな」と全制動をかけたのが昨年7月の最高裁判決だったのさ。

001177(「最高裁は結局こういうところに行き着く」を見てね)

1-e1397901276348裁判官は我が国の刑事司法の伝統を守れ、報告書をもう一度ちゃんと読めってね、ま、そういうことになった。これで求刑超えもこれからはほとんどなくなるだろう。

『読売』を研究する

1-e1397901276348さぁ、最後に『読売』だ。

001177これは5月20日ですね。トップの横見出しは「求刑上回る判決 急減」。中見出しは「最高裁判断 影響か」「『先例』を重視」と「延びる審理 増える辞退」。内容は求刑超え判決の激減をどう考えるべきかということと、裁判の長期化・辞退増加の問題。

1-e1397901276348求刑超えについては、「評議が適切に行われるようになった」という元判事の肯定論と「市民参加の意欲低下につながりかねない」という推進弁護士の懸念論を並べて紹介している。

006311009「市民参加の意欲低下」は明らかです。

1-e1397901276348数少なくなった参加者からも見放されたら、裁判員裁判に参加してくれる国民はあとどこにいるのか。最高裁は最終幕「八方ふさがりの段」に突入している。しかし、そのあたりについてはもう皆さま共通の理解だろう。ここでは後者の審理の長期化や辞退の増加をテーマにする。

延びる審理 増える辞退Y1506042
審理日数や評議の時間が延びる一方、裁判員の辞退は増え続けている。最高裁が施行6年を前に発表した裁判員制度のデータからは、「国民の幅広い参加」にかげりが出ている現状が浮かび上がる。
初公判から判決までの平均審理に数は、09年が3.7日だったが、年々延びて今年は9.9日。公判回数も3.3回から4.7回に増えた。各地裁が裁判員の負担を軽減しようと、審理を詰め込まずに日程に余裕を持たせる傾向が強まっている影響とみられる。
評議時間も、09年の平均6時間37分から、今年は12時間31分に延びた。ベテラン裁判官は「納得いくまで評議したいという裁判員の要望を踏まえ、評議に時間をかける意識が高まっている」と話す。

150504-03「国民の幅広い参加」にかげりが出ているって? 「かげり」というのは「好ましくない徴候」のことだぜ。

001181ほんとに。「審理日数や評議の時間が延びる一方、裁判員の辞退は増え続けている」って言うんでしょう。そういうときに使う言葉じゃないでしょ。赤信号とかレッドカードとか、こういう場合にフツー使う言葉を使いなさいよ。

1-e1397901276348始まった年と今年1~3月をくらべると、公判前整理手続期間は3倍近くに延び、審理日数も3倍近くになった。開廷数も5割も増えた。評議時間は2倍近くに。辞退率は5割強から7割近くに。

001177裁判員の負担を軽くせよという至上命令は、興味深いことに公判前整理を決定的に長期化させるという結果を生みましたね。

1-e1397901276348この段階で徹底的に闘わなければ超短時間の公判審理では負けてしまう。そのような危機感で検察も弁護も緊張し、裁判所も「裁判員に迷惑をかけないなら」とある程度寛容に対応した。結果、公判前整理手続はどんどん長くなった。公判がなかなか始まらないので被告人は延々と待たされる。それもほとんどは拘置所などに拘束されたままだ。

006311009ひどい話。

1-e1397901276348それでも公判審理は短くならず、これもどんどん長くなっている。審理日数が長くなるということは、検察や弁護が主張にかける時間を長くし、尋問する証人などの数を増やして、1人当たりの尋問時間が長くなっていることを推測させる。

001177聞く話が多くなればなるほど情報量も増え、論点も多くなって評議の時間も長くなるのは当然です。

1-e1397901276348「各地裁が裁判員の負担を軽減しようと、審理を詰め込まずに日程に余裕を持たせる傾向が強まっている」と。

1505013ん?

 「納得いくまで評議したいという裁判員の要望を踏まえ、評議に時間をかける意識が高まっている」と。

1505013ん?ん?

150504-03負担を軽くするために日にちをかけてくれと本当に裁判員たちから言われているのか。評議に時間をかける意識が高まっていると本当に言えるのか。そんなに意欲的な状況があるのなら、やって良かったって声がもっともっと世の中に広がってもいいはずだ。

001177そう、最高裁の「インチキ」アンケートだけじゃなくてね。

 ただ、今年は裁判候補者に選ばれた約4万2214人のうち2万8332人が辞退し、辞退率は67.1%。施行当初より14ポイントも高く、国民の参加意欲や関心が薄れている可能性がある。審理日程が仕事と重なることを辞退の理由に挙げる人も多いため、裁判所内では「短期間での集中審理の方が参加しやすい場合もあり、辞退を減らす方策を考える必要がある」との声も上がっている。

1-e1397901276348その状況は「国民の参加意欲や関心が薄れている可能性がある」なんていう生やさしい状態ではまったくない。国民から見放されているというような言い方を避けるところに、制度推進に走ったマスコミの無責任がまたまた顔を出している。

001177でも、「短期間での集中審理の方が参加しやすい場合もある」なんていうことになると、現状以上の短時間審理で結論を出すことになる。けれど、それなら参加してもよいと考えを変えてくれる保障なんて実際の話どこにもありません。

006311009やっぱり八方ふさがりなんだなぁ。

1-e1397901276348さて、『朝日』『毎日』『読売』、全国紙三紙の6周年報道記事を皆さまはどう読まれましたか。どう読んでも「終わりの風景」じゃないですか。制度の推進に走った人たちのベースにあったのは「市民の声を裁判所に」というなにやらよさげな響きを持つ言葉だった。でも、最高裁はそんなことを爪の先ほども考えていなかった。そして最高裁の思惑は白日の下にさらされた。そうしたらマスコミの皆さんが言うべきことは、不勉強・不徳のいたすところと深くお詫びするってことじゃないのですか。自身の立場をはっきりさせないでうろうろ中途半端なことを言ってごまかすのは醜悪ですよ。

投稿:2015年6月4日